FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



ネット小説のランキングに参加しています。投票(週1回)いただけると、とっても励みになります♪
 お気に召したらぜひ一票♪にほんブログ村 恋愛小説(純愛)へ 
*Edit TB(-) | CO(-) 

6.短剣の持ち主

2009.02.28  *Edit 

 ランス公が執務室に消えていって間もなく、サンジェルマンは衛兵から、部下が面会したがっていると知らせを受けて部屋を後にした。部下は一階の衛兵待機室にいるという。階上まで上がることが許可されない階級に属する、彼の部下だ。
 雑然とする衛兵待機室に足を踏み入れるなり、サンジェルマンは待ち人の顔を認識して息を飲んだ。その部下を任務地に派遣して二ヶ月も経っていない、予想外に早い帰還だ。
 日の光がわずかにしか届かない部屋の隅に存在を溶け込ませるようにたたずむ男を見て、サンジェルマンは良くない知らせを予想して落胆する。男は戸口に立ったサンジェルマンに気づいてもにこりともせずに、数人の若い衛兵がたむろする室内を斜めに横切って、足早に彼に近寄って来た。
「無駄足だったか」
 サンジェルマンの呟きが聞こえなかったらしく、男は彼の前で頭を下げて帰任の挨拶を丁寧に述べた。早かったな、と彼は声をかける。
 だが、部下が顔を上げると、その瞳は意気揚々として輝いていた。その表情の明るさで、サンジェルマンは自分の思い違いを予感した。
「サンジェルマン様、見つけましたよ!」
 部下の声は談笑している衛兵たちの声に紛れてしまうほどの音量だったが、サンジェルマンは咄嗟に男の背後に目を光らせ、誰も自分たちを振り返っていないことを確認した。目をみはって部下を見ると、部下は無言で、彼から少しも目をそらさずに唇の両脇を小さく上げる。
 サンジェルマンは驚きを隠し、慎重をきして、彼を外へと連れ出した。大きな宴を控えているせいで城内は普段より人の往来が多く、二人は静かに話ができる場を探して二転三転と場所を移ることになった。部下も心得ており、彼と廊下を歩いている間は一言も口をきかない。
 
 召使に自分たちを邪魔しないように言い含め、サンジェルマンは階上の空き部屋に部下と入り、廊下に声が届かない窓際へと移動した。最終地のここに到着するまでの間に断片的に聞いた情報をつなぎ合わせれば、彼の報告の大筋は既にわかっていたが、それをあらためて確認する意味でも、サンジェルマンは事の次第の説明を彼に求めた。部下は眉にかかる前髪を指で無造作に払いのけ、その下から鋭気に満ちた目をのぞかせて、笑顔になる。
「ベルアン・ビルにジェニー様の叔母はおりました」
 サンジェルマンがその意味をかみしめるようにして頷くと、部下はより低い声となって話を続けた。
「叔母ジョセフィーヌ・ゲンスブールは皆からはジャンヌと呼ばれ、夫を病で早くに亡くしてからは、村はずれの館に十歳の息子一人とひっそりと暮らしております。近くに住む老夫婦が毎日その館に通い、二人の世話をしている模様です。当地には、戦で夫を亡くした同じような境遇の女だけの世帯がいくつかありまして、彼女も最初は私を警戒して扉を開けてくれなかったのですが……私がジェニー様を保護する者の代理として彼女を捜索している旨を告げると、それはもう、たいそうな喜びようで。ジェニー様の出身地が――ヴィレールによる統治に代わったと彼女は知っておりまして、行方不明となった家族の身を以前より案じていたようです。彼女は、ジェニー様の父親の妹にあたるとのことでした」
 部下の声がかすれ、彼は用意されていた水に口をつける。サンジェルマンはそれを見守り、彼が続きを話し始めるのを静かに待った。
「残念ながらジェニー様の両親の安否はわからないのですが、彼女はすぐにでもジェニー様に会いたい、私に同行する、と言いはりまして――僭越ながら、私の判断で、こちらよりあらためて近いうちに出向く旨を取り決めてまいりました」
 部下はサンジェルマンを仰ぎ見て、彼の返答を待っている。サンジェルマンは、彼を安心させるように微笑み、答えた。
「よくやった。近々、私が彼女の保護者としてベルアン・ビルに出向こう」
「は」
 サンジェルマンは男が口をつけた杯の隣にあった杯に水を入れ、口にふくんだ。水はもうぬるかったが、喉全体にじわりと染み込んでいく。水が喉にふれて初めて、彼は、自分が驚くほど喉が渇いていたことに気づいた。
「ただ、サンジェルマン様、訪問される際にはご注意いただきたい点がありまして」と部下が控えめながらも力強い口調で言う。「彼女はヴィレールに並々ならぬ警戒を抱いているようなのです。我々がヴィレール人であることは伏せた方が賢明かと存じます」
「心得た。兄家族がヴィレールの犠牲になったとみなしているのだ、よからぬ感情を持つのも当然だろう」
「いえ、それだけが理由とはどうも言い切れぬようで」
「どういうことだ?」
 しかし、部下にその根拠を尋ねても彼の所感としか言いようがないらしく、サンジェルマンは仕方なくそれ以上の追求をあきらめた。それから彼は、ジェニーの叔母の置かれている現状をしばらく聞き、おおよその訪問日を決めた後に二人は会話を終了した。
 彼らが小声でしゃべりながら階段を降りていく途中、サンジェルマンは階下から誰かが階段を自分たちの方に向けて上がってくる足音を聞いた。狭い踊り場が二人の前に現われると、そこに召使女の黒い頭が見え、それが二人の方にくるりと振り返った。
「ま、サンジェルマン様? 今、お知らせにあがろうとしていたところです」
 顔を上に向けて彼女は言い、思い出したかのように膝を折って軽く挨拶をする。
「どうした? 城から何か連絡でも?」
「いいえ。急ぎとかで来客の方がおみえに――」と召使女は二人から彼女の背後に顔を向け、サンジェルマンもそれにつられて彼女の後ろに続く階段をのぞき見た。男の履く固い靴音が聞こえ、サンジェルマンの視界に入ってきた茶色に似た頭髪の持ち主が、上を仰ぎ見て彼に笑う。
「どうも、サンジェルマン様」
「……ベアール殿?」
 ベアールはその場に止まり、サンジェルマンと視線が合うと、笑顔をぎこちないものに変えた。サンジェルマンは一瞬言葉につまり、隣にいた部下を思わず見ると、部下も何かを感じたらしく、顔をひきつらせていた。

 サンジェルマンと部下がついさっきまで密談していた部屋に三人が入ると、ベアールは部屋の隅にあった寝台まで進み、疲れた様子でそれに腰掛けた。二人はさっきと同様に窓際に歩み寄って、ベアールの様子を観察しながら、考えをめぐらせ合う。入室する際にもベアールはサンジェルマンの部下の存在を疎んじるような目線を向けたが、彼は再び、部下の男を困惑したようにちらりと見た。
「彼は今回の事情に通じている。気になさらないでもらいたい」
 サンジェルマンがベアールを制すように言うと、彼は小さく息をついて、投げやりな調子で片手を上げた。
「そうですか。そうですね、ええ、ここでの話を口外しないでいただけるならね、構いませんよ」
 サンジェルマンは部下と顔を見合わせる。
 ベアールの陰りのある表情を目にするのは、サンジェルマンも初めてだ。彼は常に明るく得意げで、女たちが側にいれば艶っぽい表情に変わる。その彼がサンジェルマンの視線を拒み、寝台から壁、天井にと視線を次々にめぐらせているのは、既に直面してしまった事実から少しでも目を背けたいからのようにも思える。
 サンジェルマンが口を開こうかとしたそのとき、
「サンジェルマン様はそのご身分にそぐわず、ずいぶんと質素な暮らしをされているのですね」と、感心したような、だがどこか呆れたような口調でベアールが言った。
「寝に帰るだけの場所だ、日々の暮らしには事足りる」
「ええ、そうでしょうね」
 聞く前から彼の返事をわかっていたというように、ベアールは淡々と言った。そしてまた、彼は無言で室内を見まわす。
 サンジェルマンは話を先延ばしされることに嫌気がし、窓際からベアールのいる寝台へ足を踏み出そうとした。すると慌てて、ベアールが言った。
「実は、本日こうして私が急ぎ参ったのは――」
 サンジェルマンが立ち止まると、ベアールが幾分ほっとした顔となった。
「例の、短剣の件です」
 ベアールにサンジェルマンが短剣を託してから、まだ十日にも満たない。
「まさか、持ち主がもうわかった、と?」
 サンジェルマンは答えを全く期待せず、ベアールに問いかけた。ベアールは、なぜか渋々といったふうに首を縦に振る。
「貴公に依頼してまだ十日も経たぬが?」
「ええ、そうなんですが、まあ」
「はっきりしないようだが、それはたしかか?」
 彼が詰め寄るとベアールは寝台から音をたてて立ち上がり、両手を広げて言い放った。
「ええ、確かですよ。父がそう言うのだから、間違えようもない!」
 サンジェルマンは、隠居間近と言われている現在のベアール家当主の顔を思い出した。息子ユーゴは、父親の外見上の特徴をよく受け継いでいる。
「父というと、ご当主が?」
「そうです」ベアールが頷いた。
「私の父が、私が遊戯台に置いておいた短剣を偶然に見かけ、私にその入手経路を問いただしたのですよ。その時の父といったら、それはもうすごい剣幕で――私は唖然としましたよ! でも、私が入手方法を明かせないと知ると、これまたひどい落胆ぶりで。我が親ながら哀れに感じましたが、そこはやはり、サンジェルマン様との約束を破るわけにもまいりませんから――」
 ベアールが笑みを無理にたたえてサンジェルマンを見上げたが、彼は笑い返さなかった。彼はまだ、肝心の短剣の持ち主を明かしていない。調査をすべきベアールが放置していた短剣を、父親が見かけたために持ち手が判明したという、偶然の産物だったことは、この際目をつぶろう。
 ベアールはすぐに真面目な顔になり、非常に居心地が悪そうな様子で話に戻った。
「まあ、私も父に問いただしたのです。そこまで父がこれに固執する理由は何かと。見たところ、何の変哲もない、単なる古い短剣だ。それほど立派な意匠でもなければ、素晴らしい切れ味を持った刃というのでもない。だが、サンジェルマン様は持ち手を知りたいとおっしゃり、父は入手先を知りたがる、いわく付きの短剣だ。それがベアール本家の所属である以上、次期当主となる私にも知っておく権利はある。それに、持ち主が特定できれば、本来あるべき場所にそれを返却することもできる――サンジェルマン様はそれをお望みではないかもしれませんが」
「そんなことはない。いずれは然るべき者に返す所存だ」
 サンジェルマンの顔を見ていたベアールが眉を上げた。
「これは――既に持ち手をご存知のようですね」
「……現在の持ち手を知っているだけだ。本来の、ではない」
 彼の返答に納得したかどうかわからないが、ベアールは目を伏せて、先を続けた。
「ともかく、そういった話をして父を説き伏せ、持ち手の名を出させたのです。父は、その名を口にするまで長いこと迷っておりましたが――正直、私も今申し上げるのを躊躇っておりますが――父は、私にようやく名を告げてくれました。と言いましても、その名を知らされても、私には誰のことかすぐにはわからず、家の者に尋ねてみてやっと記憶がよみがえったのですがね」
「その者とは?」
 サンジェルマンはすかさず彼に尋ね、その表情のどんな変化も見逃さないようにと彼に視線を定めた。ベアールはひるんでサンジェルマンとその部下を一瞥し、少し言いよどんだ後、やがて腹を決めたように言った。
「アルベール、私の兄です」
 ジェニーの父親と同じ名だった。だが、世にありふれた名前でもある。
「貴公の……兄?」 
 サンジェルマンの口に力が入らず、息だけに押し出された言葉が空中に浮遊していったように感じられた。
「はい」
「兄とは――ああ、不慮の事故で亡くなるまで、貴公の前に模範試合を担当していたという?」
 ベアールがゆっくりと頭を左右に振った。
「それは二番目の兄ヴィクトールです。彼ではなく……私の長兄です」
 ベアールが、いたたまれなくなったように窓際へ歩いていく。ベアールは眉をひそめて親指を唇に押し付けながら窓の外を眺めた。窓から入る光が、彼の髪を明るい色に戻していた。

 サンジェルマンが窓の方に一歩近づくと、ベアールが顔だけを彼に振り向けて言った。
「サンジェルマン様、あの短剣をどういった経緯で入手されたのか、教えてはもらえませんか」
 ベアールの隣にいたサンジェルマンの部下が、じろりとベアールに視線を向ける。
「それはできない」
 サンジェルマンが答えると、ベアールが窓を背に彼に体をくるりと向けた。
「サンジェルマン様、極秘事項なのは承知していますが、私の家にも関わるかもしれぬことです。どうか、お聞かせ願えませんか」
 サンジェルマンの目を見つめ、ベアールは嘆願する。けれど、サンジェルマンは事務的に答えた。
「悪いが、現段階では明らかにはできない。それがたとえ貴公の兄の物だったとしても――誰かに与えられたか、盗まれた可能性もある」
 ベアールは憤慨したようだったが、紳士らしくそれをさっと隠した。
「ええ、当然にそれは否定できませんよ。誰が持っていたかにもよりましょう。……誰が持っていたのです? サンジェルマン様はご存知でしたね。それも、私には教えていただけないのですか?」
 ジェニーの顔を思い浮かべながら、サンジェルマンは彼を見返した。
「持ち主は若い女だ」


ネット小説のランキングに参加しています。投票(週1回)いただけると、とっても励みになります♪
 お気に召したらぜひ一票♪にほんブログ村 恋愛小説(純愛)へ 
*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL
http://novellovers.blog73.fc2.com/tb.php/83-2aa4c523

 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。