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5.王の子

2009.02.24  *Edit 

 ある日の朝、王の執務室へ向かう前のひと時にサンジェルマンが女官長の部屋で彼女と話をしていると、二人がいる部屋の扉をたたく者があった。皆が忙しくしているこの時間帯に、女官長が誰かの訪問を受けることはほとんどない。彼が女官長をみると、彼女は、わからない、というふうに肩を小さくすくめてみせた。
「どなた?」
 女官長がサンジェルマンの顔を見ながら部屋の外に声をかけると、彼も知る女の低い声が返ってきた。
「アリエルです。お忙しいとは存じておりますが、お知らせしたいことがございまして」
 アリエルの返事を聞くと、女官長はそれまでの笑顔を一瞬で消し、次の瞬間には普段のとりすました面に変わった。そして、サンジェルマンを仰ぎ見て、入室の是非を問う。
 サンジェルマンは、ジェニーに謝罪する機会を作るために一役買ってくれたアリエルとの思わぬ再会を前にし、胸中が急にざわつき始めるのを感じた。少し前のことだが、アリエルに会うことを口実として、サロン越しに彼はジェニーと直接言葉を交わし、率直に自分の非を謝罪して許された、という経緯がある。
 彼が女官長に頷くと、彼女は尊大な口調でアリエルに入室を許可した。
「お入り」 
 扉を開けて室内に入ってきたアリエルは、室内にいたサンジェルマンを見てわずかに動揺したようだった。
「これは、サンジェルマン様? お話し中でしたか、大変失礼いたしました」
「いや、もう終わるところだ。それより――こんな時間に来るとは、ジェニー嬢に何か変わったことでも?」
「あ、ええ」と、アリエルは素早く笑顔を浮かべて彼に答え、女官長に振り向いた。「ジェニー様に風邪のような症状がみられまして。昨夜より食欲も落ちておられるようで、朝食を軽いものに変えるよう、厨房に伝えておきました。朝食後には侍医が来てくれるそうです」
 アリエルが黒目がちな瞳をサンジェルマンに向け、人のよさそうな微笑みを浮かべる。二人が偶然に再会した前回、中毒騒動の際にジェニーを犯人扱いして申し訳なく思っている、と、サンジェルマンがつい口を滑らせたのと同じ笑顔だ。彼はそう漏らしたことをその場で後悔したのだが、ジェニーに直接謝罪したらどうかと彼に勧めたのはアリエルだ。それに、彼とジェニーの仲が誤解されないようにと、いかにもアリエルに用事があるように装うことを提案したのも、彼女だった。
 女官長がジェニーに同情的な言葉を言い、続けてアリエルに何か指示を与えていた。女官長の頭の向こうで、頭一つ分背の高いアリエルが彼女の言葉に真摯に耳を傾けている姿勢は、見ていてとても好ましい。
「王には彼女の具合を伝えておきませんとね」
 女官長がサンジェルマンに振り返ったので、彼は同意して頷いた。
「王も彼女のことは気がかりだろう。彼女が十分に養生できるよう、お二人で取り計らってくれ」
 サンジェルマンがアリエルに向くと、彼女は軽く頭を下げ、穏やかで柔らかな笑みを彼に再び返した。

 平穏な日々が過ぎて月が変わり、剣技大会の開催月が来た。毎夏、戦の続いた年でもこれだけは中断されず、開催され続けてきた年次行事だ。ライアンが以前にサンジェルマンに話したように、過去七年間の模範試合を担当しているユーゴ・ベアールが十日後には王城へやって来る。
 ジェニーの短剣は、本当にベアール家に所属するものなのか?
 ユーゴ・ベアールとサンジェルマンとは親交がほとんどないが、お互いに存在は当然知っており、おそらくは、お互いに、そりが合わないだろうと認識している。ユーゴ・ベアールは、他に類をみない剣の腕前のせいだけでなく、妻帯者ながら派手な女性遍歴のせいで、貴族の間でも有名な男だ。女に関心がない、男色好みだとまで噂されるサンジェルマンとは、まるで正反対の位置にいる。
 ベアールとの接触の日について考えていると、今まで別室にいた王が侍従長たちと共に部屋を出て、サンジェルマンの控える部屋の前の廊下を通り過ぎていった。サンジェルマンは慌てて立ち上がり、彼らの後を追う。ここ最近になってそうであるように、王を囲む者たちが護衛の近衛兵から大臣たちに代わっている。大臣たちの態度はまだぎくしゃくしていたが、王とは、一方通行ではない会話を何とか推し進めているようだ。
 王に追いついたサンジェルマンはほんの一分にも満たない会話を彼と交わし、王が他の大臣と一緒に別室に入るのを見送ってから、侍従長について西館に行った。侍従長も最近ははれやかな顔つきで、愚痴をもらすこともめっきり減った。
 食堂を過ぎて階段へ着く手前の廊下で、二人は女官長とアリエルにすれ違った。アリエルは普段どおりに柔和な笑顔で彼らに挨拶したが、女官長の方はどこか落ち着きがない。
 後宮勤めの侍女でも使用人たちの場である西館に来ることは不思議ではないが、サンジェルマンが知るだけで、アリエルは週に一度の割合でここまで足を伸ばしている。彼女の主人ジェニーの体調が悪いことは知っていたが、他に特別な理由は思い当たらない。サンジェルマンの考えすぎかもしれないが、彼は何となく、二人の女たちの接触に引っかかりを感じていた。

 近頃のゴーティスは多忙だった。一年前の同時期、あちこちの地域で戦をしていた時期も彼の身はそれなりに忙しかったはずだが、今とは雲泥の差だ。
 フィリップとの会話の中でゴーティスが財務担当の大臣の不正を偶然に見つけ、即時に解任して以来、その後任の大臣が彼をつかまえて時折話しかけるようになったかと思うと、次には古株の大臣が、それからはその他の大臣たちが、何かと理由をつけて城のあちこちで彼を呼び止めるようになった。今では、どこから出るのかと思うほどに様々な相談が彼に持ちかけられ、彼はその度に次から次へと指示を出すか、何らかの決定事項を伝えている。
 気が長くなったのだ、とゴーティスは自分で思う。ジェニーの予期せぬ反抗の数々に慣らされたのか、何事も、多少の事では腹も立たなくなっている。そのジェニーとはここしばらくの間、彼女がサロンにいる姿を目にはしても、直に口をきく機会には恵まれていない。
 側近が書状の内容に目を通している間、ゴーティスは部屋から何気なく中庭を見下ろし、サロンの近くに立っているサンジェルマンに目を留めた。彼の腹心は、いつになく穏やかな笑顔を浮かべている。 
 また、あの侍女としゃべっているのだ。
 最近のサンジェルマンは、ゴーティスと常に同じ場にいることはない。それまで王をいなす為に拘束されてきた時間が、別の任務に充てられることも増えてきたはずだ。彼にはある程度の時間の余裕が生まれたらしく、今まで見向きもしなかった“女性”に関心を移す気にもなったのだろう。本館の片隅で、女官長を交え、ジェニーの侍女とサンジェルマンの三人が話していたのをゴーティスは二度見かけたことがある。侍女とサンジェルマンの視線は女官長の頭上で何度かぶつかり、その度に、両者ともが遠慮したようにお互いから目をそらしていた。
「王、どちらへ?」
 突然に身をひるがえしたゴーティスに側近の一人が声を掛けた。
「すぐに戻る」
 彼の手の中にある書状を見ながら、ゴーティスは答えた。

 ゴーティスが中庭を歩いてサロンに近づいていくと、サンジェルマンが最初に彼に気づき、少しうろたえる素振りを見せた。彼の前にはサロンの壁越しにジェニーの侍女がいて、中庭への降り口の奥にはジェニーが立っている。サロン入口の両脇に立つ衛兵たちが、王の出現に靴を鳴らして姿勢を正した。
「めずらしい場所で会うな、サンジェルマン」
 ゴーティスが横目で彼をちらりと見ると、彼が戸惑ったように顔を下に傾けた。
「は。所用がありまして」
「所用、な」
 彼の答えなど頭から信じず、ゴーティスはサロンへの入口に足をかけた。ジェニーと侍女は既にサロン出入口の奥に退き、王を迎えるために頭を垂れている。ゴーティスは黄色がかった明るい栗色のジェニーの小さな頭を眺めた後、左隣にいる侍女の、きっちりと分けられた髪の生え際を見た。
「おまえ!」
 ジェニーが顔を上げた。血色は悪くなく、不機嫌そうにも見えなかったが、困惑したように彼を見返す。ゴーティスはジェニーに向かって首を振り、隣の侍女に指をつきつけて、言った。
「おまえの方だ、女! こちらへ来い」
「は、はい!」
 ゴーティスに呼ばれた侍女は明らかに面くらっていたが、王の命令とあれば行くしかない。緊張をたたえてゴーティスの前にやって来た彼女は、彼が認識していた三十代よりは若く、理知的で澄んだ瞳をしていた。ジェニーより、頭のある位置が高い。
 ゴーティスが侍女の顎をつかんで顔を上げさせると、彼女の後ろで息を飲む音が聞こえ、彼は視線をジェニーにそらした。ジェニーが責めるように彼を見たが、彼が目を細めて彼女を見返すと、むっとしながらも侍女の背中に視線を移した。侍女は、彼の視線をまともに受けないように視線をそらしたままだ。
「おまえの名は?」
「……アリエルでございます」
 ゴーティスはちらりと中庭の方に視線を走らせ、サンジェルマンがわずかに顔を強張らせ、うつむいているのを見た。
「ほう、変わった名だな」
 アリエルの顎をつかんだ手を引いて顔を引き寄せると、彼女の顔に力が入った。だが、彼女は動揺を表面に出そうとせず、あくまで無表情で彼から視線をそらし続けている。主人ジェニーに似て、いい根性だ。
 おもむろに、ゴーティスはその侍女の顔をひきつけて、くちづけた。侍女の体は一瞬だけたじろいだが、王である彼に抵抗することはせず、彼女の体はそれ以上、少しも動かない。
 彼女から唇を離したゴーティスは、その背後で言葉を失っているジェニーの驚愕の表情を見つけ、サロンの壁の向こうに振り向いて、サンジェルマンが衝撃を受けてその場に凍りついているのを見て、ひとり満足して笑い声をあげた。
「あれを見ろ、女! どうやら、あの男はおまえに本気なようだ!」
「……えっ?」
 侍女が驚いて中庭に振り返り、そして、ゴーティスの前でみるみる赤面していった。サンジェルマンの方はといえば、見るのもかわいそうなくらいに動揺して、視線を地面にさまよわせている。彼が冷静さを欠いた姿など、めったに見られる光景ではない。
 ゴーティスは侍女から手を離し、その背後にいるジェニーに目をやった。彼女はいまだ口もきけない様子だったが、彼の視線に気づき、瞳だけを何とか動かした。
「ジェニー」
 ゴーティスが彼女を手招きすると、彼の前にいた侍女がはっと息をのんで振り向いた。
「おまえは外に行け。用があれば呼ぶ」
 ゴーティスにそう告げられると、侍女は再び赤面してうつむいた。
 ジェニーが動こうとしないので、ゴーティスは侍女の横を通り過ぎ、まだ呆然としている彼女の前に、久しぶりに、立った。


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