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5.王の子

2009.02.23  *Edit 

 誰かが扉の外で話をしているらしく、サンジェルマンは現実と夢の世界を行きつ戻りつしていた瞼をあげて、細く開かれた扉の隙間から覗く廊下を見やった。彼は召使部屋に居て、彼同様に解毒処理を受けた数人もその疲れきった体を簡素な寝台の上に横たえている。彼の斜め向かいにある寝台にはライアンが場所をとっていたはずだったが、いつのまにか、ライアンの姿は既に消えている――。
 狩りから戻って以来、何度も繰り返し見た夢から覚め、サンジェルマンは視線の先にある自室の扉を眺めた。それが今にも外側から押し開けられるように感じて彼はその瞬間を待ってみたが、現実の扉はぴったりと閉まっていて、小さく揺れることすらしない。

 昨日になってやっと、王の従兄弟であるフィリップが王城を発った。彼も王と同様に中毒事件に遭遇し、その後の体調は悪くなかったが、大事をとって帰城後一週間を王城で過ごしていたのだ。王の叔父ラニス公一家の者は王を恐れて王城に近づきもしない、と密かに陰口をたたかれていたというのに、フィリップは一週間も王城に滞在して皆を驚かせたばかりか、ぎこちないながらも王と会話を成立させて、皆をさらに驚かせた。
 フィリップの穏やかで優しい性格は、常に緊張感を漂わせる王城のとがった空気を変え、人々の気をほぐし、癒してくれた。彼のせいだけでもないだろうが、彼が王城にいた間は王も比較的静かで声を荒げることはなかったので、城内はいつもより和やかな雰囲気に保たれた。
 フィリップはまた、王や彼自身を救ったジェニーの存在とその活躍を城中に広める役割も同時に果たした。事件のことでフィリップが彼女にひどく感銘し、感謝しているのは誰の目にも明らかだった。休養しているとされたジェニーとフィリップの再会は彼の滞在中についに叶うことはなかったが、彼は、何らかの形で彼女に感謝を表す旨を王に約束した。王はフィリップがジェニーの話題を持ち出すたび、困惑を含んだ憂いを瞳にのぼらせ、彼の話を黙って聞いていた。
 王の様子が普段とどことなく違うとサンジェルマンが最初に感じたのは、彼らが王城に戻り、王に、複数の者を襲った毒をジェニーが用意したかもしれない可能性を伝えたときだ。王はまじまじと彼を見つめて首を傾げ、その可能性は低いだろう、と一言返しただけだった。
 事実、王のその発言は数日後に証明されたのだが、王のそのときの不可思議な様子はサンジェルマンの心にどうにも引っかかり、フィリップが滞在している期間のおとなしさも不気味だった。王の何がどう変だと明確には説明できないのだが、強いて言うならば、王の持つ雰囲気、なのかもしれない。
 
 サンジェルマンが寝床から起き上がって階下へ降りると、朝日が白く眩しい光となって部屋の床を照らしていた。狩猟の館を発った日と同じ、明るい朝だ。おはようございます、と下働きの女がサンジェルマンに挨拶をし、朝食を用意するかどうか、彼に尋ねた。彼は女に頷く。
「ああ――いや、やはりいい。向こうの食堂で食べる」
 サンジェルマンは考え直してそう返事をし、一度出た自室へと足を戻した。
 あの日、サンジェルマンが狩猟の館で遊戯室にふらりと入った出発の日の朝、前日は確かにそこに無かったはずの剣が壁にきちんと戻されていた。彼が大広間を掃除していた召使を大慌てでつかまえて尋ねると、女は少しだけ安堵したような笑みを見せて、
「はい、椅子の下に転がっていた剣なら片付けました」
 と、彼に答えた。女ののんびりした口調に嘘の匂いはなかった。
 剣は誰かが手に取ったのかもしれないが、ジェニーが持ち去ったのではなくサンジェルマンが見つけられなかっただけで、ずっと部屋にあったのだ。
 ジェニーの言い分を聞こうともしなかった事を思い出すと、彼は、早く謝罪せねば、という気持ちになる。彼女は王に毒を盛りはしなかった。彼女の言葉どおりに、彼女は何もしなかった――それどころか、王の命を救い、皆を救っている。騒動の夢を見るくせにジェニーの姿が現れないのは、サンジェルマンが彼女に対して申し訳ないと思う、その裏腹なのかもしれない。
 サンジェルマンは自室の収納棚の奥深くに手を伸ばし、重ねられた服の下に隠しておいた古い短剣を引っぱり出した。しばらくは必要性を感じず、彼が放置しておいたジェニーの短剣だ。剣の鞘の凹凸を指で確かめながら、必要性はともかく、やはり、彼女の素性を調べてみたい、と彼はあらためて思う。
 彼は短剣を服の中に滑りこませ、部屋を出て階段を降りた。彼の住む棟を出ると、夏が近づいて緑に覆われた地面が目の前に広がる。

 夜勤明けの近衛兵の朝食時間としては早く、日勤の者たちは自宅や宿舎で食事を済ませて城にやって来るため、食堂には誰一人としていなかった。しかしそれは、サンジェルマンが予測していたこと。彼は、その閑散とした空間で、誰にも邪魔されずに物思いに耽りたかったのだ。
 彼とはすっかり顔なじみである召使が彼のために食事を温めてくれており、隣室から漂ってくる肉の脂の匂いが食堂の空気を次第に濃厚に変えている。食事が用意されるのを待つ間、サンジェルマンは懐から取り出した短剣をあらためて眺めた。
 ジェニーによると、彼女の家には剣が何本か備えられ、家族全員が剣を扱えるそうだ。私はまだちゃんとした剣を持たせてもらえずに短剣をもらったけれど、どこかで失くしてしまった、とジェニーはいつか残念そうに言っていたが、護身用に親から渡されたという短剣をまさかサンジェルマンが持っているなど、彼女は思いもしないだろう。
「――サンジェルマン?」
 突然に名を呼ばれて顔を上げると、食堂の入口からライアンが顔を出していた。
「ライアン殿」
 彼はがらんとした食堂を見渡し、サンジェルマンの方に向かって歩いてきた。
「今、食事か?」
「ええ」
 サンジェルマンが頷くと、彼は疲労を色濃くにじませた顔をおざなりに笑顔に変え、サンジェルマンの対面に座った。帰城して以来、彼を城の敷地内で見かけることはあったが、しっかり顔を会わせるのはこれが初めてだ。彼は常に身なりをきちんとしている人間だが、ここ一週間は極めて多忙で身の回りを気にする時間がなかったらしく、顎に金色の髭が薄く生えている。サンジェルマンが見ていると、彼は視線を上げた。
「例の騒動についての調査報告を聞きましたよ。お手柄でしたね」
 サンジェルマンが微笑むと、ライアンは渋い顔をして首を横に振った。
「そうでもない。結果的には原因が究明できたから良いようなものの――中毒の理由が判明したきっかけは、近衛の一人が規律に反して勝手に飲食したことによる。本人も被害を受けて苦しんだらしく反省はしているが、他の者に示しがつかない」
「でも、近衛隊は事件を解明されたのですから」
「いや、それより……真の功労者はあの彼女だろう。王の御命も救った、ジェニー嬢。ここ最近、皆の間ではその話で持ちきりだ。彼女については私もよく知らぬが――その、何やら一風変わっているように私も感じたが、少なくとも、彼女は皆を平等に、献身的に介抱していた」
 ライアンは頬を指で掻きながら、決まり悪そうに笑みを浮かべる。彼は人を褒めることが苦手な人間だから、それが彼なりのジェニーへの精一杯の賞賛なのだろう。
 サンジェルマンの食事が運ばれてきて二人の会話は中断した。

 給仕がライアンの杯に水を注ぎ始め、サンジェルマンはそれまで膝の上に置いていた短剣を再び懐に入れようとした。
「――それは?」
 サンジェルマンが手を止めてライアンを見ると、彼が、興味を引かれたように短剣を見つめている。
「ああ、これは……」
「きみの物ではないな。どうしたのだ? ずいぶんと古そうな短剣ではないか」
 サンジェルマンは短剣についてあまり追求されたくなかったのだが、仕方なくそれを服の間から戻し、テーブルの上に置いた。
「これは私が偶然に拾ったのですよ。持ち主がわからないのです」
「拾った?」
 ライアンは疑わしそうに眉をひそめて短剣を手に取り、それをひっくり返して紋章が彫られている裏側を見た。そしてすぐ、納得のいった表情に変わる。
「ああ、なんだ、これはベアール家のものではないか」
「ベアール家?」
 サンジェルマンがおうむ返しに問うと、ライアンは笑みを浮かべて頷いた。
「この紋章はよく覚えている。家紋に剣の図を使うなど、いかにもあのユーゴ殿がおられる家にふさわしい模様だと思った記憶があってな」
「では――毎年の剣技大会で模範試合をする、あのユーゴ殿のベアール家? ……本当に?」
 サンジェルマンが戸惑って問うと、ライアンが不思議そうに彼を見返し、再び頷いてみせた。
「本当だ。確かめたいのなら、近衛隊にいるベアール家の者に尋ねてみてもいいが?」
「あ……ええ」
 サンジェルマンは混乱して、ライアンの持つ短剣を見つめた。
「ベアール家……?」
「もしくは――」と、ライアンが再び口を開いたので、サンジェルマンは顔を上げた。
「来月まで待てば、そのユーゴ殿が剣技大会の事前準備で城にやって来る。その際に本人に直接尋ねたらどうだ? 彼はベアール本家の者だ、何かしらの情報が得られるだろう」

  ◇  ◇

 ジェニーが後宮に戻ってから一週間以上たつが、ゴーティス王は彼女の部屋に一度も姿を見せていない。それはそれで心情的には助かったが、ジェニーには休養が必要だと女官長が後宮中に宣言してくれたおかげで訪問者もなく、ジェニーは、毎日の有り余る時間に余計なことばかりを考えてしまっている。
 女官長は彼女がサロンに出ることさえ最初は禁じたのだが、アリエルが主人のためにと女官長を説得し、許可をとりつけてくれた。ここにすら出られないとなったら、ジェニーはきっとおかしくなっていたに違いない。
 ジェニーが中庭に面する壁の方へ近づくと、中庭を横切って歩いてくるサンジェルマンと衛兵に気づいた。彼の顔を見るのも帰城して以来初めてだが、今は何となく、気まずい。ジェニーはサロンの奥へとさりげなく移動した。

 ゴーティス王と顔を会わせない日々がその後も続いた。アリエルは城の近況をよく知らせてくれていたが、近頃では、サンジェルマンから得た情報も持ってくる。 
 王を狙った暗殺未遂事件と疑われた騒動は、近衛隊が彼らの威信をかけて調査をし、ジェニーたちが帰城して数日で、王専属の料理班が有毒な野草を高級食材と勘違いし、王や客の食べる料理に混用したことに起因すると突き止めた。王を死に目に遭わせた、単純な不注意ながらも赦されない罪に問われ、食材手配担当から料理班を派遣した料理長まで全員が死罪または牢獄行きとなったそうだ。
 騒動の顛末を知ったジェニーは、王への復讐に失敗して逆に救出してしまった事実や王の不可解な告白を次々に思い出した。首をはねてやる、と息巻いて激昂していた王の瞳が、思いつめたように揺れる眼差しに変わって自分を見ていたことを、ジェニーはつい昨日のことのように覚えている。
 彼の行為は、ジェニーの頭を混乱させる。
 ジェニーは、自分があれこれ考えすぎていると自覚していた。それは繰り返し身にふりかかる事件のせいであり、体調が不安定なせいであり、頭の中に踏み入ってくる、あの王の緑色の瞳のせいだ。
 重いため息をつき、ジェニーがサロンと中庭を遮る壁にもたれて向かいの棟をふと見上げると、二階の一室の窓際にゴーティス王の姿が垣間見えた。室内にいる誰かと話をしているようで横顔しか見えないが、その様子からすれば、もうすっかり回復しているようだ。ジェニーは彼から視線をそらした。 
 少しして、ジェニーが再び向かいの棟に視線をやると、窓枠に手をかけ、おそらくはその少し前から自分を見ていた王の姿に気づいた。ジェニーに気づくと、王は窓から体を離し、室内の方へと姿を消してしまう。彼女の位置からは彼の表情がよく見えなかったが、苛立っていたようにも見えた。
 ジェニーはサロンの奥に進みかけ、だが、なぜか再び後ろを振り返って、向かいの棟を見上げた。王の姿はまた窓辺に戻り、ジェニーを見つめている。ジェニーの視線に気づくと、彼は少しだけ顔を傾けた。微笑んでいるようにも見えた。

 ある夜、深夜に寝苦しくて目を覚ますと、ジェニーは首まわりにじっとりと汗をかいていた。体の節々が火照り、体中の感覚が鈍い。精神的に疲れているせいで、また微熱が出たのかもしれない。
 体調が悪化したら夜中でも召使を呼びつけるようにと女官長からは再三言われていたが、ジェニーは寝台の横に垂れ下がっている召使呼び出し用の紐を眺めながら、その後の大騒ぎを予測して、その考えを打ち消した。これ以上、皆からの余計な注意を引きたくない。
 梟か鳩か、哀しげな鳴き声が遠くで響いていたが、普段と同じく、夜の闇には他の何の音も混じっていない。ジェニーは顔を両手でごしごしとこすり、勢いをつけて寝台の上に起き上がった。肩が張って頭も熱っぽいが、動かずにいられない。
 見えない誰かの手に導かれるように、ジェニーは久しぶりの地下の階段を後宮の奥深くへと下っていった。地下牢に真夜中の巡回があるとは聞いていたが、それが彼女の足を止める障害にはならなかった。最近の自分の身に起こった全てをかなぐり捨て、自由になりたい。地下に辿り着けば全てが解決するのだという、脅迫観念にも似た感情がジェニーの背を後押ししていた。
 けれども、地下牢に続く入口を目前にして、ジェニーはさすがに二の足を踏んだ。石壁に耳をぴったりとあて、壁の向こう側での音の有無を念入りに確かめる。彼女の歩んできた道を振り返るが、そこには真っ暗闇しかない。自分とケインの再会の妨げとなりえそうな状況はない。ジェニーは息をつき、出入口を隠してある石段をずらした。
 地下牢側の秘密の出入口に頭を出す前に、ジェニーは出入口を塞ぐ木板に耳をあて、神経を集中した。何の音も聞こえない。ジェニーは息をゆっくりと吐くと、木板に手をかけた。
「――ジェニー?」
 出入口のすぐ近くで囁き声がし、ジェニーはびっくりして今にもしりもちをつきそうになった。
「ジェニーだね?」
 今度は少し大きな、男の確かめるような声がし、ジェニーはそれがケインとわかって胸をなでおろした。
「ケイン? そこにいるの?」
「いるよ」と、一瞬の間の後、ケインの柔らかく変化した声が返ってきた。
 ジェニーが急いで木板を外すと、反対側からジェニーを覗く、ケインの黄色く光る瞳が縦に二つ並んで見えた。ジェニーが明かりを持ち上げて光の中に現れた彼と目を合わせると、彼の瞳は嬉しそうに笑った。
「待って、今、そっちに出るわ」
 彼が首を振った。
「いや、だめだ、今日はまだ看守が来ていないんだ。そろそろ来るだろうから、きみは来ちゃいけない」
 ジェニーはがっかりし、大人ひとりが屈んでやっと通り抜けられる壁の穴から、中腰の姿勢で彼を見た。
「せっかく……やっと、会えたのに」
 ジェニーが言うと、ケインが横向きからうつ伏せに体勢を移し、地下牢の弱々しい明かりが彼の背中越しにジェニーの方に射した。彼の瞳がジェニーを優しく見つめている。
「私もずっと会いたかった。本当に、久しぶりだね」
 ケインの視線がジェニーの目から少し下に動いたが、彼はただ微笑んで、言った。
「何回か、きみのところへ行ったんだ。でも、なかなか、うまく会えないみたいで――」
「私も何回かここに来たの、でも、あなたはどこかに行っていて――」
 ケインが愉快そうな笑顔に変わる。
「やっときみに再会できて、嬉しいよ」
 彼のうわずった声は、その言葉の字義どおり、本当に嬉しそうに聞こえた。彼の笑顔につりこまれてジェニーも笑った。
「ジェニー、実はいい知らせがあるんだ。私は最近、地下水路に通じる道を発見したんだよ。ほら、水道というのは城外から水を引き入れているよね? だから、城外に達する水路を見つけてそれを伝っていけば、ここから抜け出ることも理論上は可能なはずなんだ。そう聞くと、なんだか希望が湧いてこない?」
 ケインはそう言って瞳を輝かせ、屈託のない笑みを向ける。
「ただ問題は、水路は複雑に入り組んでいて、幅が狭すぎて通れない水路もたくさんあるんだということ。でも、心配しないで。私が今、必死に経路を探しているから。時間がかかっても、必ず見つけ出してみせるよ」
 ケインの説明に感極まり、ジェニーは胸が詰まる。彼の示した脱出方法には確証はないが、ジェニーの今の状況から脱却できる、小さいが眩しい光の出口が見えた気がした。近頃は気の休まることがなかったジェニーは、ようやく安堵してため息をついた。
「――どうしたの? 嬉しくない?」
 眉根をひそめて、ケインがジェニーに訊く。その表情は誰かに似ていたが、ジェニーにはその人物までを特定できなかった。
「ううん、嬉しいわ。一刻も早く――私はここから脱出したい」
 あまりにも実感のこもった言い方に引っ掛かったのか、ケインが心配そうに顔を曇らせ、ジェニーに顔を寄せた。
「……何かあった、ジェニー?」
「えっ?」
「きみはとても悲しそうな顔をしているよ。何か、あったの?」
 ジェニーは王の命を奪い損ねたことを話したかったが、彼が城からの脱出を図る囚人とはいえ、事の重大さを考えると躊躇わずにはいられない。
「秘密は守るよ。それに、私がきみ以外の誰に話すって言うんだ?」
 ジェニーが思わずくすりと笑うと、ケインもつられて笑った。ジェニーは大きく深呼吸し、毒による一連の騒動から、王を殺し損ねて彼を救出したことまで、王の告白を除く全てを彼に吐露しようと決めた。

 ケインは真剣な面持ちでジェニーの説明に耳を傾けていた。が、彼女が王に剣を向けたところに話がさしかかると、彼は彼女の予想した以上に衝撃を受けた反応を見せた。彼の驚愕した表情を目にした瞬間、ジェニーは口から出してしまった言葉を飲み込んでしまいたいと悔やんだほどだ。その後すぐ、彼はジェニーを励ますように微笑み、精一杯の同情を言葉で表した。
「だから、一刻も早くここを脱出したいんだね」
 だが、静かなケインの口調は、なぜか彼から責められているようにも聞こえ、ジェニーの胸に突き刺さる。ええ、とジェニーが無理に頷くと、ケインが妙にさみしそうに微笑んだ。
「きみが王に手をくだそうとしたことを、皆は知らないんだね?」
「ええ。知られていたら、私はこの世にはいないわ」
「それはそうだ」
 ケインはジェニーから視線を外し、何かを考え込むように黙った。ジェニーは自分の告白が彼にもたらした影響の大きさを測りきれず、どうしたらよいかわからなかった。少ししてジェニーを見返したケインは、頬をやや強張らせていた。
「――なぜ、王はきみを咎めなかったんだろう?」
「それは、私にもわからないわ」
 と言いながら、ジェニーは王の“俺を愛せ”という囁き声と頬にかかる彼の吐息の温かさを思い出した。
「私が彼を助けたからかも……。でも、あの人の本音はわからない」
 ケインは何の返事もせず、ジェニーを思いつめた瞳で見つめていた。ジェニーが視線を合わせると、彼の視線が時々、下の方へと移動するのに気づく。彼が自分の唇を見ているのだとわかったのはそれからすぐだ。ジェニーがおずおずと身を乗り出そうとすると、ケインもゆっくりと顔を寄せた。黄色に見えた彼の瞳は、近づくにつれて薄い緑色だというのがわかる。
 ジェニーが目を閉じようかとしたその時、ケインが弾かれたように体を離した。
「巡回だ!」
 二人が耳をとぎすませると、遠くの方から微かな物音が聞こえてきた。ジェニーが彼を見ると、ケインが硬い笑顔を返した。
「近いうちに会おう。きっと!」
 ケインの名残惜しそうな顔にジェニーは何度も頷き、出入口を隠す板を壁に戻した。


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