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4.復讐のとき

2009.02.21  *Edit 

 階段を上がっていく王を見送り、サンジェルマンは大広間には戻らずに館の外へ出た。日は弱くなり始めていたが、まだ外は明るい。サンジェルマンは館の周囲に異状がないかと目を配りながら、館の周りをゆっくりと歩いていった。外で護衛を担当する近衛兵たちが彼に気づき、次々に敬礼する。
 近衛兵は二人で一組となって場を担当する決まりになっているが、サンジェルマンは庭を一人で歩いている近衛兵を見つけた。その若い近衛兵は退屈そうに地面を蹴りながら、のろのろと移動している。
「そこの近衛兵!」
 サンジェルマンに呼び止められた近衛兵は、あまりにも驚いた様子で立ち止まった。単独行動を不審に思ったサンジェルマンにその理由を問われると、その近衛兵は気まずそうに顔を曇らせる。
「その、実はですね、相棒が急に腹の調子が悪いと言って持ち場を去りまして。ちょうど今、館内で介抱されているところなのです。あの、すぐ戻ってくると思っていたら、なかなか戻ってこなくて、僕も困っているわけでして……」
「それで一人でいるわけか。本来なら一人での任務は禁じられているはずだが。副隊長にはもう知らせたのか?」
「あ、いえ、まだですが……」
 若い近衛兵の声がだんだんと小さくなっていく。サンジェルマンは身を小さくする彼を見て、息をついた。
「君の持ち場はどこだ? いかにここが安全地帯とはいえ、油断は常に禁物だ。その者が戻らぬというなら、担当場所を別に変えてもらえるように計らってもらえ」
 サンジェルマンがそう言うと、その近衛兵は意外そうに彼を見た。そして、安心したように微笑み、はい、と返事をした。

 館の周りを一周し、サンジェルマンは玄関を再びくぐった。外の太陽の明るさに慣れた目が、室内の薄暗さに慣れるまでに少し時間がかかる。大広間の方から、騒がしいほどでもないが複数の人々の話し声が聞こえてきた。
 サンジェルマンは大広間へ戻ろうとして、ふと、それとは逆方向の、開きっ放しになった部屋の扉に目を留めた。隣も向かいの部屋の扉もきちんと閉まっているのに、そこだけが半分ほど開き、室内からの光が廊下に細長く伸びている。
 彼は部屋に近づくと、条件反射で剣に手をやり、その扉から室内にそっと入った。そこは、それほど広くはない遊戯室で、室内にひと気はなかった。二つの窓も開いていて、そこから差し入る日光が床の敷物の赤い色を鮮やかに浮き立たせている。中央の一人掛け椅子が斜めに動かされており、その脚に引きずられ、下にある敷物には大きな皺が寄っていた。
「誰もいないのか。召使の誰かが掃除をしようとして、他の用事ができて慌てて出て行ったか」
 サンジェルマンは部屋の中央に寄っていき、椅子を元の位置に動かそうとして、はっとして足を止めた。彼は思わず、部屋を注意深く見回した。
 壁面に飾られた数々の剣の並びで、右端から五本目の部分に空間ができている。一本の剣が忽然とそこから消えていたのだ。
 彼はもう一度、剣を探して部屋をぐるりと見回した。しかし、それらしき剣は見当たらない。
 彼は再び、はっと息を飲んだ。ジェニーの顔が頭にふって湧いてくる。
 彼らが狩りで留守の間、ジェニーはこの館にいて部屋を自由に行き来できたはずだ。しかも、彼女は剣を扱う。戦地から王城へ連行される途中、「必要なものは?」とサンジェルマンに問われ、ジェニーは、王の命を、と彼に答えていたではないか。
 次に、サンジェルマンの頭にゴーティス王の姿が映った。王はジェニーのいる部屋へ向かったはずだ。 
「だが、いや、まさか……」
 サンジェルマンは戸惑い、部屋から出ようとした。混乱の酷さからか、脚がからまってうまく歩けない。頭まで朦朧となってきている。胸に急について出た不安のせいか、何だか、考えがうまくまとまらない。
 彼が扉に体を預けて息を整えようとしていると、その目前の廊下を、血相を変えた召使の女が一目散に疾走していった。
「……まさか!」
 急に足から力が萎え、サンジェルマンは扉を下に滑り落ちるようにして床に腰を落とした。立ち上がろうと試みるが、なぜか足に力が入らない。
 サンジェルマンの目に、大広間の入口から何人かの近衛兵が飛び出していく姿が見えた。さっきよりも大広間の方が騒がしくなっており、女の悲鳴に似た声まで聞こえる。下腹が急に重くなり、彼は腹を抱えて体を曲げた。
「ああ、まさか! まさか、ジェニーが……!」
 ジェニーが剣を掲げる姿が目にくっきりと浮かんで、サンジェルマンは激しく動揺した。足を床に立てようとするが、足はぐにゃりと曲がるばかりで、彼の意思をまったく無視している。
「誰かいないか!」
 サンジェルマンは叫んだが、廊下の先には既にひと気がなかった。
「誰か! 誰か、王がご無事かどうか……!」
 彼の言葉の半分がかすれ、誰ひとりとして大広間から出てこない。
 身動きのできない自分の、今の身を呪いたくなる。階段の方角に、サンジェルマンは腕をむなしく伸ばした。
「王、どうか、どうかご無事で……!」
 唇が痺れ、彼は喘いだ。彼の伸ばしたその手が、視界の中でぼやけていく。

 いきなり開かれた扉に、ジェニーとアリエルは驚いて会話を中断した。扉口にはゴーティス王が立っており、二人を見て大きく眉をしかめている。
「具合が悪いと聞いておったが――」
 彼は大股でずかずかと室内に入ってきた。アリエルがジェニーの座る長椅子の前から腰を上げ、窓際へとそそくさと移動する。ジェニーの前まで来ると、彼は上半身を傾け、彼女の目を疑わしそうに覗き込んだ。
「いやはや、元気そうではないか? 俺の不在を随分と楽しんだと見える。具合が悪いと理由をつけ、俺を体よく遠ざけるつもりでおったか?」
「王、ジェニー様は先ほどまで伏せっておりました、本当でございます!」
 アリエルが慌てて口を挟み、その反論に王は冷ややかな目を向ける。
「おまえは黙っておれ。――そうなのか、ジェニー?」
 王の視線を追ってアリエルを見た後、ジェニーは彼の不機嫌そうな顔を見た。
「頭痛がして休んでいたのは本当よ。もう治ったけれど」
「それゆえ、迎えに出なかったと?」
「そうよ。私が迎えに出たくないと思ったとしても、それは、アリエルが許さないもの」
 ジェニーがアリエルをちらりと見ると王もそれに倣った。彼女が照れたように顔を赤らめ、ジェニーに微笑み返す。
「ふん。迎えに出たくない、など、よくもそうはっきりと俺に言えるものだ」
 王の雲っていた表情がいつのまにか晴れている。彼が手を伸ばし、ジェニーの頬に手を触れた。彼は、自分の様子を見に来ただけなのではないか、とジェニーは感じた。頬に力をいれ、ジェニーは黙って彼を見返す。
「おまえ、ずっとここで寝ておったのか?」
「いいえ、庭には出たわ。だけど、せっかくの機会だったのに、外もあまり出歩けなかった。明日の昼前にはもう、ここを出るっていうのに」
「……ほう。それはまた不運な」
 王は意地悪そうな笑みを見せたが、口調は静かで、その目にはどこか憂いが満ちていた。彼はジェニーの頬を指で触りながら、その一点をずっと見つめている。彼は、普段よりずっと落ち着いた態度だ。
 ジェニーの視線を感じたらしい王が、彼女を穏やかに見つめ返して言った。
「明朝にも時間はある」
 ジェニーは何だか面食らい、その目から逃れるため、視線を窓の外へと外す。
 そのうちに衣擦れの音を聞き、ジェニーはアリエルの動く気配を感じた。見ると、アリエルが壁際に沿って入口の方に向かって歩いている。
 頬に触れた王の手がジェニーの顔を引き戻し、ジェニーは王を見上げた。彼は、彼女の顔をじっと見下ろしている。身の危険は不思議と感じなかったが、ジェニーは、未知のものに接しているような恐怖を覚えた。
 王が無言でジェニーから手を離し、さっきまでアリエルが座っていた椅子に腰を降ろした。それから彼はその簡易な椅子をジェニーのすぐ近くにまで引きずり、二人の膝が触れるほど近くに寄る。彼に近寄られると、心臓が騒がしくなる。ジェニーが腿の上に置いていた手を、王が手に取った。
「……そう抵抗するな」
 ジェニーが手を引き抜こうとしたのを諭すように、王が静かな口調で言う。
「放して」
 しかし、王は彼女の手を握ったまま、ジェニーをじろりと見るだけだ。
「やめて、放してよ」
 ジェニーが尚も手を引っぱろうとすると、王がむっとしたように彼女をにらんだ。ジェニーも、次に彼がどんな行動をとるのかと警戒しながら、彼をにらみ返す。
「おまえという女は――」
 王が彼女を見据えたまま、椅子から立ち上がろうとした。すると、何かに気をとられたのか、一瞬、彼が足元に目をやる。
「ようもそこまで俺を――」と、彼が言いかけ、言葉を途中で止めた。戸惑った顔をして、体勢までそのままで止まる。
 不審に思ってジェニーが見守る中、ゴーティス王が彼女から離した手を自分の口元に当てる。その唇からは、赤みが消えている。
「何だ、これは……?」
 次の瞬間、彼は喉を押さえ、いきなりジェニーの膝に手をついた。と思うと、彼女の足元に崩れるようにして、彼は床に片膝をついた。

 厨房手伝いの少女が勝手口の外で調理器具を洗っていると、館から慌てて飛び出してきた下男に声を掛けられた。おそらくは南部人との混血で、肌の色が濃い、十二、三才の少年だ。
「私、忙しいのよ。なに?」
 身分でいえばほぼ同じだが彼女の仕える先が王なので、彼女は偉ぶった態度で少年に尋ねる。
「あああ、あの」
 と、少年は慌てた様子でしゃべろうとしたが、うまく口がまわらないようだ。彼女は自分と数才しか年齢の違わない少年を見下すように見つめ、苛々した調子でさっきの言葉を繰返した。
「私は忙しいの。何か用?」
「あの、ちょっと、どうも様子がおかしいみたいなんで!」
 少年は膝を地面について、大きくため息をつく。彼女は呆れ、彼の上下する肩を見つめた。
「何なのよ、一体。あのね、さっきも言ったけど、私は忙しいの。あんたがおかしいことはわかったわよ、わかったから。さ、私の仕事の邪魔をしないでちょうだい」
「だ、だ、ダメだ、そんなの! 早く来てくださいって!」
 少年が興奮して彼女の腕をつかみ、彼女は仰天して悲鳴をあげた。
「――あんた、何するの!? その汚い手を放しなさいよ!」
 少女が彼の手を取ろうとしたが、彼は彼女の腕を引っぱって館に引きずって行こうとする。
「女の人たちはみんな出ちゃってるし、お城の近衛兵は僕の言うことなんか聞きゃしないよ。ふん、エラぶっちゃってさ! 早く来てよ、お医者様の様子がおかしいんだ! すごく苦しがってて!」
 少女はそれを聞き、反抗する手を弱めた。すると、少年が卑下するように彼女を見返す。
「何なの、どういうことよ?」
「僕にだって何が何だかわかんないんだ。ともかく、一緒に来て、お医者様を何とかしてよ!」
 少年に連れられて少女が侍医のいる部屋に入ると、鼻につくような酸の匂いがした。侍医の助手を務める男が入口近くにいて、侍医の震える体を必死にさすっている。床には所々に嘔吐した形跡があり、少女はそれらから目を背け、助手の男におそるおそる尋ねた。
「これは――何があったのですか?」
 男は疲労をにじませた顔を少女に向けると、力なく首を左右に振った。
「胃がもたれるとは普段からよくおっしゃっていたものだが、先ほどになって――その近衛兵を診察していたら急に嘔吐されてな。原因はよくわからんのだがね」
 少女は部屋の中央の寝台を何気なく見た。誰かの足が見えるが、全く動かない。
「おまえたち、お湯を沸かしておいてくれないか。それと、どこかから毛布でも調達してきてくれ」
 少女は助手に返事をし、単なる興味本位で、中央の寝台にいる患者を見ようとして、背伸びをした。そこには、見慣れた青い近衛兵の制服をきた男が体を丸く曲げて横たわっていた。顔が真っ青で、死んだように動かない。
 その顔をよく見ようと男の顔をのぞき込んだとたん、少女は悲鳴をあげた。それは、彼女がついさっきまで会っていた、近衛兵のデルフィーだった。

 サンジェルマンが目を細く開くと、そこは大広間の入口扉前の廊下だった。彼が意識を失った部屋の前から、彼は無意識のうちにここまで這って進んできたらしい。体全体が鎖で縛られたかのように固まっていて、重い。
 ぼんやりしていた視界が晴れるにつれ、大広間からの喧騒がはっきりとサンジェルマンの耳につく。室内の床に倒れた数人の背中と彼らを介抱しようとする近衛兵たちの姿、召使女二人が彼らの間を飛び回るようにして、布や水を配っている。戦地での情景のようだ。
 呆然として床に座りこむ者の中には、部屋に引き上げたはずのフィリップの姿があった。近衛兵と話していることから、彼は命に別状はなさそうだ。
 だが、そこにはゴーティス王の姿はない。誰かが王の無事を確認したかどうかも、知りようがない。
 サンジェルマンはひと苦労して体勢を変え、廊下の床に仰向けとなった。目を開くと真上に天井が見える。
「サン……ジェルマン?」
 誰かのしわがれた声がして、彼は顔を左側に曲げた。
「サンジェルマン……」
 入口の扉に肩を押し付け、それでやっと体を支えて立っているライアンが彼の反応を見て、あきらかに安堵した様子を見せた。若干ながら、ライアンの症状の方が自分より軽いようだとサンジェルマンは見てとった。
「ライアン……殿?」
 サンジェルマンの口から声は出なかったが、彼はその息に似た音が彼の名と理解したようだ。ライアンは頷き、恨めしそうな表情をして階段の方へと視線を投げる。
 サンジェルマンは、彼のその視線が何を意図するかを瞬時に理解した。他の者たちと違い、ライアンとサンジェルマンが、何よりも優先する項目は共通している。ゴーティス王の身の安全確保だ。
「王を……頼む、ライアン殿」
 彼が階段の方へ視線を送ってみせると、ライアンが口惜しそうに歯を食いしばった。震える膝を必死に持ち上げ、背中を壁に押し付けながら、横に進んでいこうとする。
「頼む……!」
 ライアンが何度か床に膝をつきながら歩いていく様を、サンジェルマンは天に祈る気持ちで見送る。“毒”らしきものへの脅威からも、ジェニーの剣の攻撃からも逃れ、王がまだ無事に生きのびていられるように、と、彼はただただ願わずにはいられない。
 サンジェルマンには、彼女に少なからず好意的な感情を持ち、つい油断したことへの自己嫌悪と無念が募るばかりだった。身体的苦痛をも越える、王を失うかもしれない恐怖とジェニーへの怒りで涙がにじんでくる。
 サンジェルマンは無念で喘いだ。

 ――ライアンの目には、“何”によって苦しむ王の姿が映るのだろう?


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