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4.復讐のとき

2009.02.20  *Edit 

 狩りの一行は、まだ日が高いうちに館に帰ってきた。大猟とまでは言えないが、小鹿とキジを狩れたことで、王を含む四人は揃って上機嫌なようだ。王の後続にいるリヨン公が、隣の近衛隊隊長に大声で陽気に話しかけている。普段は人の会話に入りたがらず、気に障る、と言って王はむしろ人々と距離をつけたがるが、今日の王はリヨン公に何かを問われると、めずらしく嫌な顔をせずに何度か返答していた。
 館の玄関前には、帰宅した一行を出迎えるために召使や館の主人が勢ぞろいしていた。その顔ぶれを見て、サンジェルマンはそこにいるべきジェニーの姿がないことに気づく。一抹の不安を覚え、サンジェルマンがその理由を尋ねようと手近にいた召使の一人をつかまえた時だった。
「サンジェルマン、王も久々に狩りを楽しまれたようではないか?」
 サンジェルマンが足を止めて振り向くと、フィリップが彼を見て微笑んでいる。
「今日お会いするまでに様々な話を聞き及んでいたが、変わらず、王はお元気そうだ。私は、王のお元気なお顔を拝見できて嬉しいよ」
 その言葉どおり、フィリップが嬉しそうに笑う。彼はサンジェルマンからの返答を聞きたがっているように見えた。そこで仕方なく、サンジェルマンは召使に目配せをし、その場から彼女を去らせることにする。
「はい。王もフィリップ様との再会を楽しみにしておりました」
「……本当にそうならよいが」
 と、フィリップがもの静かに言い、寂しそうな笑みをもらす。だが、すぐに彼はいつもの微笑みを表情に戻した。
「しかし……王も、すっかり大人の男へと様変わりされたものだな」
 フィリップが感慨深そうに王を眺める様子を、サンジェルマンは複雑な思いで見つめる。
 たしかに、フィリップが知る以前の王は今よりも華奢で小さく、もっと少年の面影を色濃く残していた。そして、もっと穏やかで優しい性格だった。
 その彼らの視線の先で、王が出迎えの一同を見るなり、一瞬だけ眉をひそめる仕草をした。
 近衛兵たちが外と館内に分散し、王と各家からの護衛以外の者たちは大広間に整えられた席に通された。サンジェルマンは召使にジェニーの不在理由を確かめる機会を逃していたが、王が退屈そうながらも焦っていないことから、ジェニーが館から逃亡したわけではなさそうだ、と結論づける。
 サンジェルマンは入口近くに待機するライアンの横に留まることにした。彼らは最初に目を合わせはしたが、隣同士で立っていても口をきくことはない。
 王が席に座るとすぐに、酒や軽食が彼らの前に運ばれてきた。香ばしく、甘い匂いが室内にだんだんと充満していく。リヨン公、フィリップ、今日は王の同行者として出席している近衛隊隊長、王の臣下でもあるランス公が和やかに話を進め、場は寛いだ雰囲気で包まれていった。

 ジェニーが目を開けると、アリエルがちょうど侍医を扉の前で見送っているところだった。室内の見慣れない装飾品が目に入る。ジェニーは寝台の中に納まったまま、自分の部屋とは違う室内をゆっくりと見渡す。彼女がその場をどこかと思いだすまで、数秒の時を要した。
「アリエル?」
 ジェニーに声を掛けられ、アリエルがびっくりしたように振り返った。
「ジェニー様? ああ! 私、ジェニー様を起こしてしまいましたか?」
「いいえ、そうじゃないけど。……私、眠ってしまっていた?」
「はい。遠出は久しぶりでございましょう? きっと……お疲れだったのですよ」
 アリエルが少し心配そうに微笑む。
 ジェニーは自分がこの寝床に入った時を思い出そうとした。あの時は頭がとても痛くて、倒れこむようにして寝床に入ったのを覚えている。そして、それよりも前、多くの剣が飾られたあの部屋で、ジェニーは剣の“感覚”を取り戻そうとして、それを何度か振りまわしていた。懐かしく、勇気を奮い起こされる、剣の重量感。
 急に目眩がして、ジェニーがその場にしゃがみこんだのはその直後だ。アリエルが助けを呼び、ジェニーは召使が持ってきた水を大量に飲んだ後、二階のこの寝室に移動した。
「ジェニー様、今のご気分はいかがです?」
「悪くないわ。眠ったら、すっきりした感じ」
 ジェニーが上半身を起こそうとすると、アリエルがそれを手伝った。枕に体を預け、大きな息をジェニーがつくと、アリエルが微笑ましいものを見るような目で彼女を見つめ、微笑んだ。ジェニーが笑い返すと、彼女はさらに微笑みを顔面いっぱいに広げる。
「お水を差し上げましょうか? それとも、何か召し上がれそうですか? 料理番がジェニー様のためにお菓子を用意しておりますよ」
「お菓子?」
「ええ。ジェニー様のお好きなグースベリーと苺の砂糖漬けをのせたサブレですわ」
 ジェニーはびっくりしてアリエルの満面の笑みを見つめた。果物の砂糖漬けがのせられた焼き菓子はジェニーの好物だ。アリエルが料理番にジェニーの好みを伝えてくれたに違いない。
「食べるわ! ありがとう、アリエル!」
 寝室に運ばれたサブレを堪能した後、ジェニーは再び眠くなってしまった。せっかくの外出なので館の周囲でも散策したかったのだが、強烈な眠気には、どうしても勝てない。一時間ほど後に起こすようにアリエルに伝え、ジェニーはまた、気持ちのよい寝床に戻った。

 大広間の一行のための料理を一通り作り終え、料理番の男は熱さで赤らんだ顔に噴出す汗を手の甲で拭う。厨房の台には、料理番自慢の野菜づくしのクレープや果物のシロップ漬けが並べられ、配膳されるのを待つばかりだ。ずっと火が点っていた釜の圧倒するほどの熱気が治まってきて、厨房はやっと落ち着きを取り戻していた。
 手伝いの下女が勝手口の扉を開くと、外の爽やかな空気が厨房内に流れこんできた。料理番が勝手口に注意を向けると、彼と同じく顔を真っ赤にした少女が言った。
「こちらに、食事を作っておきました」
 彼女の示す先、部屋の隅には使用人用の料理が置かれている。野菜の先端部分など、料理番が残した部材を使った、いわば、賄い料理だ。王城であれば、王と同じ高級食材を使った料理を口にすることは許されていないが、こういった場では目をつぶってもらえることになっている。少女は料理番の真似をし、様々な野菜・香草を生地に混ぜ込んで数層に重ね、うっすらと焦げ目をつけたクレープを用意していた。
「ああ、わかったよ。じゃあ、最後の品が出された後、時間をみて皆につまんでもらおう」
「はい」
 それから、少女は館の下男を庭で探し、水を補充するように申し付ける。館から二十分ほど歩けば、飲み水に使用できる小さな清流があるそうだ。下男が遠ざかっていくのを見送り、少女が館に戻ろうと踵を返すと、勝手口の近くに近衛兵が一人佇んでいるのが見えた。彼女がつい立ち止まると、彼はにこやかに笑い、小さく手を振ってみせる。
「デルフィー様!」
 少女は彼に急いで駆け寄り、非難するように、だが嬉しそうに、彼の名を呼んだ。
「どうしたのです、お役目は? デルフィー様、こんなところにいるとお叱りを受けてしまいますよ!」
「大丈夫だよ、少しくらい。それに、こんな安全な“王の森”なんかで王が襲われるものか。皆ものん気なものだよ」
「ええ、でも――」少女は辺りをはばかるように素早く庭を見渡した。
「なんだ、君は僕に会えて嬉しくないのかい? 僕は君に会いたくて、ここまで来たっていうのに」
「いいえ、そんな! 嬉しゅうございます! 私のような身分のものに、そんなお言葉をいただけるなんて……。私はデルフィー様にお会いできるだけで、幸せにございます!」
 彼が少女の小さな体を抱き寄せ、額にキスをする。少女が目を閉じると、彼女の唇が男のそれで覆われた。
 長い抱擁が終わって彼女が目を開けて彼を見ると、彼が無邪気な笑顔を見せた。
「何だかお腹が空いたな。僕たちは夜まで食物は何も供給されなくってね。君、台所に何か残ってない?」
「何か――」と、少女は首を傾げ、やがて、顔を上げた。「あ、クレープがございます! 美味と評判で、王に差し上げるものと同じ食材を使ったクレープです!」
 厨房には料理番の姿はなかった。少女は使用人分のクレープを一つくすねると、勝手口からそっと抜け、外で待っていた男に手渡す。それはまだしっかりと温かく、香ばしい匂いを放っていた。

 皆が絶品だとほめそやしたクレープが出されてほどなく、その前から酒を大量に飲んでいたリヨン公が、さすがに飲みすぎた、と言って大広間を後にしようとした。王や近衛隊隊長に呼ばれ、話に加わっていたライアンが、退室するリヨン公に付き添っていくように近衛兵たちに指示する。部屋を出る寸前、リヨン公が室内に振り返って豪快に笑った。
「老人は退散させてもらうゆえ、後は若者たちで楽しまれよ!」
「何をおっしゃるか、リヨン公! まだ四十過ぎではないか、私と大して変わりませんぞ?」
「ははは、世辞はいらんぞ、近衛隊隊長殿! 見ろ、酔いが足にまできておる。酒に飲まれるのは、おのれが年を取った証拠だ」
 リヨン公が、入口の脇にいたサンジェルマンの横を通っていく。疲れているせいか、リヨン公の目の下にはくっきりとクマができていた。
 彼とすれ違いざま、その足元がおぼつかずにリヨン公が体勢をくずし、サンジェルマンは思わず手を差し伸べた。サンジェルマンの出した手をリヨン公が頼ることは結局なかったが、彼は今やっと気づいたかのように、サンジェルマンに目を留めた。
「――おお、ミシェルではないか? 達者だったか?」
 リヨン公は元々がサンジェルマン家の出なので、彼らは親族だ。二人は、狩りに出る前の王城で再会の挨拶を交わしている。酔ったせいか、リヨン公はそれすら覚えていないようだ、と、サンジェルマンは彼に返事はせず、静かに黙礼した。
 リヨン公は近衛兵に脇を固められ、廊下を歩いていく。普段から大酒飲みで酒に強い彼がめずらしくふらついた足取りで歩く姿は、サンジェルマンの目にも何となく奇異に映った。
 リヨン公が立ち去って間もなく、今度はフィリップが王に退室願いを申し出ていた。調和を乱すことを嫌う彼が途中で引き上げようとするなど珍しい、とサンジェルマンが不思議に思っていると、彼が、「酒に酔った」というようなことを王に話しているのが聞こえてきた。
 サンジェルマンから見えるフィリップの顔は真っ青だ。彼が酒に弱いかどうかはサンジェルマンも知らないが、気分が悪いのは本当だろう。王が、呆れたような、侮蔑するような表情をして、彼に何かを答えていた。
 フィリップが場を退くと、大広間の人々の雰囲気はあっという間に冷めていった。王がしらけた表情をしているせいも大きい。酒の減るペースもぐんと遅くなった。
 やがて、王が椅子から静かに立ち上がった。
「俺は少し休む」
 王が歩き出し、入口にいるサンジェルマンに注意を向けた。彼は急いで体を横に向け、王が近づいてくるのをじっと待つ。
 王が入口を出て、廊下を左に折れた。サンジェルマンが当然のようにその後を追っていくと、王が足を止め、彼に振り返る。そして、何の抑揚も感じさせない口調で言った。
「俺は休むだけだ。ついて来ぬでもよい」
「は。ですが、どちらへ?」
 王が目を細め、苛ついたように息を短く吐く。
「二階の奥だ。ジェニーもそこにおる」
 サンジェルマンは、ついさっきになって、ジェニーは具合が悪くなって寝室で休んでいる、と知ったばかりだ。そのことは当然、王も知っている。
「承知しました。では、私は階下で待機しております。……彼女の具合も回復していればよいのですが」
 サンジェルマンがそう言うと、王がますます苛ついた様子に変わった。
「おまえは、そのような心配をせずともよい」


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