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3.もつれる感情

2009.02.15  *Edit 

 ジェニーとケインが出会った日から五日間、冬の小休止に入ったかのように雪が止み、天空から薄日の差し込む爽やかな日が続いていた。冬場に雲の合間から覗く太陽は、それがほんの一時であっても、人々の気分をぐっと高揚させてくれる。空気はきりりと冷たいがどこまでも清らかに澄み、屋内に閉じこもりとなっていた人々が外へ顔を出して、弱々しい光が透ける空を眩しそうに見上げる姿があちこちで見られた。
 少し前まで、しばらく地面を覆っていた雪が溶け、中庭の地肌が顔を出していた。雪と混じって醜い泥地と化した地面を均すため、下働きの男たちが一日がかりで庭内を清掃し、整備した。季節柄、中庭の景色の中に緑が現れることはなかったが、整備されたおかげで全体の見栄えが良くなり、天候の悪い時には閉められているサロンの扉が、久しぶりに開け放たれることになった。 
 サロンが開放されたと教えてくれたのは、意外にも、ジェニーの行動に好意的でないアニーだった。彼女もまた、長く退屈な冬に飽き、たまに訪れる晴れ間を待っていた一人なのだろう。そそくさと支度を済ませ、ジェニーはアニーを伴ってサロンへと駆けつけた。
 戸外とほとんど変わりのないサロンに、先客となる者はいなかった。廊下からサロン内に一歩足を踏み入れたとたん、室内とはあきらかに異なる外気がひんやりとジェニーの頬をなでつけたが、思ったほどに寒くはない。中庭の出入口の両側には彼女も見慣れた衛兵二人が待機していて、屋内からの物音に気づいた彼らがジェニーに振り返り、ほんの一瞬だが、厳しい表情を微かに和ませたように見えた。
 サロンを囲む二方向の壁面の上半分を占める開口部分から、やわらかな黄色の光がサロン内の床に滑り込んできている。開口部の向こうには、冬特有の寂しく殺風景な景色に変わった中庭。ジェニーが壁面により近づいていくと、肌に触れる空気が一段と冷たくなる一方で、目に飛び込んでくる太陽の光がいっそう明るくなってくる。
 くり抜かれた開口部の奥行きの深い縁に両腕を預け、彼女は中庭を縫うように走る細道を目でたどった。雪は一片も残っておらず、濡れて茶色かった地面は既に乾き始めて黄土色だ。
 天候に恵まれて見晴らしが良い場所にいるからだけでなく、数日前のケインとの出会いで今後に希望が見出せたことも手伝って、彼女の気分は晴れやかだった。久しぶりに心の奥が落ち着いていて、口元にまで笑みが自然に浮かんでくる。
 中庭の真ん中にある木に視線を移したジェニーは、その先の細道を歩いてやって来る男に気がついた。衛兵や使用人の服装とは違う。木を通り過ぎたあたりで彼は足を止め、目の上に手をかざして空を仰ぎ見ている。
 目を凝らして男をよく見てみた彼女は、あっ、と小さく声をあげた。ここで会うのは数度目になる、サンジェルマンだった。

 東館の二階にある一室から中庭を何気なく見下ろしたゴーティスは、後宮に面する一角によく見慣れた男の小さな頭を見つけ、訝しげに見直した。彼は後宮に付帯するサロンの方に向いて立っており、表情は彼の方角からではしっかりと見えないが、頷いているように頭を数度、上下に振っている。
 あの男、あんな場所で何を?
「王? あの、お手を少し上げて――」彼は春用の上着のために採寸している最中だったので、担当者の注意を促す声で室内に視線を引き戻した。
「わかった」
 しかし、返事とは裏腹に視線はまた中庭に舞い戻る。後宮のサロンは久しぶりに開放されていて、出入口には二人の衛兵が構えている。サンジェルマンの横顔を見ると、彼は顔を下に向け、笑っているようにも見えた。
 当初、サンジェルマンが衛兵のどちらかと会話をしていると思ったのだが、ゴーティスの眺めている先で、サロンの開口部から女の腕が外に伸び、身体を中庭の方へ乗り出す若い娘の姿が映った。その隣に中年の女が寄ってきて何かを言っている。娘の行動をたしなめているようにも見えた。あんな子どもっぽい行動をとるのは、後宮ではジェニーぐらいなものだろう。
 彼女の幼稚さを蔑視する一方で、彼女に警戒心を起こさせないゆえにその率直な反応を引き出したサンジェルマンに対し、怒りともつかない不愉快な感情が芽生えてくる。
 ジェニーが顔を空に向け――ゴーティスの方向からは、今までに見たこともないような彼女の明るい笑顔が見えた。
 彼は、ジェニーの泣くか怒るかの表情しか目にしたことはない。彼女の、あまりに屈託なく、幸せそうな笑顔に彼は面食らった。 
 あんな顔をして笑うのか……。
 彼がそれを初めて見たというだけなのだが、ジェニーが笑う姿は、意外なほどに彼に強烈な衝撃を与えていた。
 サンジェルマンに視線を移動すると、彼は腕組みをし、まるで全身で笑っているかのように肩をゆすっている。実際の声は届かなかったが、二人が笑い合う高らかな声が絡み合いながら、耳に入ってくるような気がした。
「王、あの……恐れ入りますが」
 いつのまにか窓辺に移動してしまっていたゴーティスは、後方から掛けられた女の声で我に返った。
「もう少々で終わりますので」
 彼は無意識に彼らに気をとられてしまっていたことに驚き、自分を情けなく感じて心の中で自分自身に悪態をついた。実体のない二人の笑い声が、今もまだ耳の奥で反響している。
「わかっておる。続けろ」
 ゴーティスは憮然として女を見つめ返し、窓辺から体を離した。

 一週間ぶりに、夜更けを過ぎた城内にちらちらと雪が降り出していた。サンジェルマンは自室の寝台に腰をかけ、部下が手を尽くして探し出したジェニーの短剣を手に取り、じっくりと眺めていた。
 やはり、古い物だ。
 それは、ジェニーを地方で拘束した日に彼女から奪い、その後、行方知れずとなっていたもの。今日の夕方、どこかに紛れこんでいたそれを、彼は家来から受け取ったばかりだ。刃先はきちんとした手入れがされて光り輝いているものの、鞘や柄の色が鈍くくすんでいる。長年の使用のせいか、持ち手の柄に彫られた意匠の突出部分が使用者たちの手の脂によって金色に変色し、磨り減っていた。
 それでも、彫られている模様自体は目視でちゃんと確認できる状態だ。二十の輪に螺旋状に蔦が巻きつき、交差した二本の剣がその輪の中に描かれている。どこかで見かけた紋章の図柄であるのは確かだ。しかも、サンジェルマンが見覚えのあるものということは、第三貴族など下等貴族のものではないことを意味している。それを踏まえると、ジェニーという一介の娘の身元は、ますます謎に満ちてくる。
 剣の扱いを知り、遠国ユートリアの言葉など四カ国語を操り、庶民ながら文字の読み書きができ、ある一定の薬剤知識を併せ持つ。彼女の口から、彼女たちは風変わりな一家で各地を転々と移動していたとも聞いた。もしかしたら、彼女の親はどこかの国の間者だった、という可能性もある。
 あれこれと考えを廻らせていたサンジェルマンは、彼女の素性に対して不必要なほどにこだわっている自分にふと気がつき、ため息をついた。詳しい調査など必要ないのだ。王から素性を洗うようにと命じられているわけではない。
 サンジェルマンが彼女の素性を探ろうと接触を重ねるうち、彼女の真の素性はまだはっきりしなかったが、わかったことがある。それは、彼女の裏表のない真っ向さと情の厚さだ。その両方に欠ける世界でもある貴族社会に生きているために、彼女は受け入れられず、問題視されているはずだ。そして、その性質があるゆえに、王への嫌悪と憎悪を露わにし、自分の使用人に親切に接し、 “同郷”のサンジェルマンの体を心配する。
 ゴーティス王に対する非礼の数々を思えば、サンジェルマンは、ジェニーをどうやっても好意的に受け入れられるはずはなかった。彼女への不信感はあいかわらず抱いており、彼女が王の所属であるという立場上、彼は一定の距離を置いて彼女に接している。
 それなのに、何とも自分で納得がいかないのだが、彼はジェニーに対し、ある種の好感と信頼の念が生まれているのを自覚している。それに、これもまた意外なことに、ジェニーも王の部下であるサンジェルマンに意識下で必死に抵抗していたようだが、彼同様、彼女の側でも同じような状況が起こっているようなのだ。彼女が彼に接する空気から漠然と感じられるだけだが、二人の間には、不思議な信頼に基づいた、淡い友情関係が築かれつつあった。
 サンジェルマンは部屋の隅にある台に短剣を置きに行くと、壁際にある椅子の上に座って靴を脱いだ。室内にいても寒さは感じていなかったが、素足になると、足を伝わって寒気が身体を上ってくる。彼は寝台に戻り、寝具の内側に体を滑り込ませた。

 次の日の朝、サンジェルマンは、光のあまり入らない執務室で女官長や長官と並び、王の予定確認に立ち会っていた。昨夜遅くから降り始めた雪はサンジェルマンが起床する前には止んでいたが、その代わりに気温が低いままに留まって、外は随分と冷え込んでいた。
 ゴーティス王が女官長に、後宮のサロンはもう閉めたのかと訊ねた時、サンジェルマンは視線を床に向けていて、王の表情は見えていなかった。質問を受けた女官長が、サロンは今朝早くに再び閉められたと返答するのを耳にして、これでまた当分の間は閉められたままだろう、と彼はサロンの佇まいをぼんやりと胸に思い描いていた。
「――サンジェルマン。二、三日前、おまえが中庭におるのを見たぞ」
 突然に話を振られ、彼は顔を上げた。彼と目が合うと、王が自嘲的に微笑んだ。
「サロンの近くだ。あそこで、何をしておった?」
 女官長や長官が咎めるような目つきでサンジェルマンに視線を注ぐ。彼は王の問いが二人と同じ想像に基づくものと悟り、つとめてさりげない口調で王に事実を告げた。
「ジェニー嬢と話をしておりました。彼女の事で気になる点があったので、それを確認していたのです」
「気になる点だと?」
 王が疑わしそうに両目を細めてサンジェルマンを見返した。「どんな事だ?」
「彼女はユートリア語を操るのです。その語圏に住んだこともなく親の出身地でもないのに、どういった経緯で習得したのかと思いまして」
「ほう、あんな最果ての国の言葉を知っておると? あの娘は思いがけずに才女だな。だが、それをあの娘がしゃべるとして、それほど重要視することでもなかろう。なにゆえ、おまえが気にする必要がある?」
「いえ、私はただ、彼女の素性が少しでも判明する手立てになればと思ったのですが」
 王がせせら笑うように鼻を鳴らした。
「ご苦労なことだ。それで、わかったのか?」
「いいえ。両親が博識で数ヶ国語を話し、ユートリア語は母親から習ったというのは聞きましたが、今のところ、わかりません」
「ふん。そうであろう」
 王はサンジェルマンの返答を聞き、あざ笑うかのように冷たく言い放った。
「されど、あの娘がよくぞ、そんな話をおまえにしたな」
「ええ――」彼が王を見返すと、王は口角を下げ、鋭い眼差しを窓の方に向けていた。「ええ。――それはきっと、私が彼女の住んでいた土地ベルアン・ビルの出身者と聞き、同郷者のよしみで口が軽くなったのでしょう」
「――は? 何だと!?」王の視線がはっと戻ってきて、瞳が生き生きと輝き出した。「おまえが、何処の出身者だと? 生まれも育ちもヴィレールで、国外に出たことのない生粋のヴィレール人であるおまえが何を言う!」
 王の態度がそれまでと一転し、肩をゆすって笑い出した。
「おまえ、あの娘に嘘をついたのか! なんと、嘘など一つもつきそうに見えぬ、誠実そうなおまえが、あの小娘をそうも簡単に騙したとは! 何とも腹黒い様ではないか!」
「――必要な嘘でしたゆえ。ですから……私は国外に住んだことのある男として、彼女の前ではそうご承知おきください」
 王はそれを聞き、さらに皮肉げに笑い続けた。

 しばらくして、笑いすぎて目じりからあふれた涙を指でぬぐいながら、王が言った。
「あの娘も愚かなものよ、おまえの嘘にまんまと騙されおって。それなりに、おまえにも心を許したのであろうに」
「それはそうでしょうが――」サンジェルマンが決まり悪そうに微笑むと、王の笑いがぴたりと止んだ。
「……なるほど、どうやら、おまえはジェニーを気に入っておるらしいな。そうでなくば、どうでもよい者の身元調査になど、忙しい時間を割くおまえではない」
「――王、何を? 私は、彼女に対してそのような情など一握も持っておりませんよ?」
「おお、よい、よいのだ、気にするな。義理堅いおまえのこと、俺に遠慮して、娘の手さえ握っておらぬのだろう?」
「なんという畏れ多いこと! そのようなこと、まったくの誤解でございます! ああ、王! どうかお許し下さい、私のとった行動はなんと身勝手で軽率だったのでしょう! 私に他意はなかったのですが、誤解されて当然の――」
「ふん。おまえこそ、自分の心を誤解してはおらぬか? 俺は、おまえを責めておるのではない。それに……あの娘も俺よりはおまえの方を好むと思うがな」
「お戯れを!」
 展開を恐々と見守っていた女官長や長官が身を固くして、サンジェルマンを非難するように見つめている。王は面白そうに笑うだけだ。
「主人が部下に女を払い下げることは、よくある話だ。俺はあの娘をおまえにくれてやってもよいぞ」
「ああ、どうか、王! 私はあの娘に特別な気を掛けてはおりません! たとえ王がそういった心づもりでおられたとしても、王の目にとまった方をお相手するなど、私には畏れ多くてできかねます!」
 サンジェルマンが珍しく語気を荒げて反論すると、それまで面白そうに語っていた王が彼にくるりと背を向けた。王はしばらく無言で、壁に顔を向けたままだった。
「王」
 肩にどっと疲れを感じながら、サンジェルマンは彼の背中に向かって呼びかけた。
「王、彼女には……暇を出されるおつもりです?」
 サンジェルマンの質問は、女官長たちの注意も必然的に引いた。王は顎を上げて上方を一、二秒見た後、静かに振り返ってサンジェルマンを見据えた。そして、にこりともせずに答える。
「さあて。……まあ、なかなかに良い退屈しのぎにはなっておる」
「そうですか。では、後宮より退かせなくともよさそうですね」
 王は少し考えるような姿勢をとり、探るようにサンジェルマンの瞳を見つめた。
「――退城させたら、おまえが身請けでもするか?」
「私が? いいえ、まさか! そのつもりはございません!」
 肯定すれば彼のジェニーに対する好意を認めることになる。
 サンジェルマンは王の問いにたじろいだのは確かだったが、意図的にきっぱりと否定をした。王の目の中にある不信の曇りが、サンジェルマンの返事で少し薄くなったようにも見えた。
 微妙に強張っていた王の顎が小さく弛み、彼はまたサンジェルマンにゆっくりと背を向けた。

◇  ◇

 冬の真っ只中に差し掛かる頃から、どういった心境の変化か、ゴーティス王が週におよそ一度の頻度でジェニーの部屋に訪れるようになっていた。それも、最近は夜だけでなく、午前や夕方の中途半端な時間帯に顔をのぞかせる時まである。そんな場合は大抵、極めて多忙だと自ら口にするゴーティス王はほんの三十分も彼女の部屋に滞在はしない。
 ジェニーの部屋にやって来ると、王は彼女を怒らすような失礼な発言や行為を故意に繰返しては、彼女がかっとなって反論したり反抗したりするのを面白そうに眺めているのがほとんどだ。それは侍女や召使の恐怖や動揺を引き起こしはするが、彼がジェニーの言動で腹を立てる様子も見られないし、彼女が彼にキスされることも、抱擁されることもない。そして、一通り気が済むと、怒りのおさまらないジェニーを部屋に残し、彼はさっさと一人で去っていく。特に何をしたわけでもないのに、彼は概ね満足そうだ。
 ジェニーには彼の真意がわからない。毎回、彼の訪問を受ける度に戸惑うばかりだ。
 そういった環境の変化もあり、ジェニーがケインと地下牢で出会って以来、彼女が地下にたどる道に降りる機会はなかなか作れなかった。それに、ケインが彼女の部屋に再び姿を見せることもなく――いや、彼がジェニーの部屋に通じる入口まで上ってきたことはあって、たまたま彼女が城内を探索していて留守だったか、彼女が階段の最上部に置いた“取り込み中”の注意書きの板を見て仕方なく引き返していったか、実際はそのどちらかなのかもしれないが。
 とにかく、彼女はケインとの再会を果たすこともないまま、いつのまにか冬の終わりを迎えてしまった。そしてその頃には、王の頻繁な訪問を伝え知った召使や後宮に務める使用人たちが彼女に対する態度を改め、丁寧なものに移り変わってきていた。ただでさえ、王と接する回数が増えるにつれて心身に疲労を感じているというのに、人々の慇懃な対応は、ジェニーを自分が自分でないような気に陥らせ、辟易とさせる。


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