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2.疑念

2009.02.13  *Edit 

 謁見会は大きな問題も混乱も起きず、三日間がつつがなく過ぎた。全工程を無事に送った側近や侍女、衛兵たちは緊張の糸が切れてほっとしていた。
 各領地は今回訪問を果たした総督たちの新しい統治下で徐々に復興の兆しを見せ、共通貨幣の導入にもそれほど大きな混乱はなく、新しい国土一帯に浸透してきているということだった。
 現在の統治に代わった当時にはある地区で住民たちによる小規模の反乱が勃発したが、規模の大小に関係なく反乱分子は抹殺するとの国の方策どおり、王軍が直々に出向き、その反乱を半日もかけずに一掃してしまった。その事件が人々を震い上がらせたのか、それ以来、戦慄の王軍に反抗しようとするような目立った勢力はなく、住民たちは自分たちの生活を立て直すことに日常を優先させているようだった。

 城の使用人たちが朝食の席につく時間帯、初冬の凍える雨が降る真っ暗な空をサンジェルマンはうらめしく眺めた。冬の雨は冷たく、日暮れには、地面にたまった水が凍って人々がその上で滑るから、雪よりも厄介だ。
 自分の吐いた息が目の前で白くなるのを見つめ、一気に冷たくなった手をこする。そして、厚手のマントを頭の上から被り、彼は宿舎にしている棟から本棟へ小走りで向かった。
 通用口に立つ衛兵たちは、朝食を済ませた昼番の者たちがやってくれば交代する。通常、サンジェルマンは、彼らが交代した後に通用口を抜ける場合がほとんどだ。彼らがサンジェルマンを見かけるのは、王に関わる何らかの問題がある時だと彼らは理解している。
「ご苦労」
 彼ら二人の前に姿を現したサンジェルマンが声をかけると二人は姿勢を正し、敬礼した。衛兵に挨拶していくのは、王城に出入りする貴族では彼ぐらいだ。衛兵たちよりも若いが妙な落ち着きの感のある彼は急いでいるふうに中へと入っていく。

 サンジェルマンは、毎朝の打ち合わせより前に王の周囲にいる者たちに会って、彼らから直接の声を聞きたかった。城の本館を通り抜けた先にある西棟に足を向ける。
 人が住まない本館はこの早朝の時間帯には各階に数名の衛兵がいるだけだが、西棟は大勢の人の気はいがあって賑やかだ。そちらには厨房や休憩室・食堂などがあり、多くの使用人や衛兵たちが出入りする。大厨房奥の小部屋では、入れ替わり立ち代りに使用人たちが来て足を休めているはずだ。
 案の定、西棟に足を踏み入れると、召使女や男たちが控え室から急ぎ足で出てくるのに出くわした。彼らはサンジェルマンに気づいて驚き、あわてて頭を下げ、足早に自分たちの仕事場に向かっていく。
 チーズの匂いだ。
 厨房からは王や後宮の女性のためにこしらえている料理の良い匂いが漂ってきていた。朝食をまだ取っていないサンジェルマンは急に空腹を感じた。
 小部屋の扉の前にきたサンジェルマンは中から女たちの話し声が漏れてくるのを耳にした。すると突然、彼の前で扉が内側に開けられ、彼は咄嗟に一歩後ろへと退いた。
「私、先に行きますね?」
 部屋の中に向かって挨拶しながら出てきたのは、黒髪で背の低い、まだ少女のような召使だった。彼の知った顔ではない。
 一方、部屋を出た目の前に若い見知らぬ男が立っているのに驚いた彼女は、面食らって彼をつい見つめた。自分をそう不躾に見つめる女はあまりいないため、サンジェルマンも彼女を見返した。呆然と自分を見上げる彼女がなかなかどいてくれそうもないので、彼は微笑んで言った。
「君は新入りか? この部屋に、王付きの付人がきているか知りたいんだが?」
「あ、えっ? は、はい! すみません!」
 彼女があわてて横によけ、サンジェルマンはその前を通りすぎる。

 サンジェルマンは侍女たちと話していた。そのとき、一人の女が彼に近づいてきた。突然現れた女の服装を見て下働きだろうと判断をしたのだろう、侍女たちが卑下したように彼女を見つめる。
「あの、サンジェルマン様でございますか?」
「そうだが、何か?」
 彼が返答したことにほっとした女は思わず笑顔をこぼれさせ、彼とまともに視線がぶつかってしまい、あわてて再び下を向いた。
「あの……ライアン様がお呼びでございます。外の、階段の上り口の所でサンジェルマン様をお待ちでいらっしゃいます」
「ライアン殿? 彼が、この時間に来ているのか?」
「はい」
 サンジェルマンは不審に思ったが、すぐに女に頷いた。
「わかった、すぐ行く。ライアン殿の元へ案内してくれ」
 彼女がサンジェルマンを部屋から連れ出そうとした際、彼はさっきまでしゃべっていた侍女たちに微笑みかけた。
「君たちのおかげで助かった。また、頼む」
 不満そうで名残惜しそうだった侍女たちが、彼の笑顔に吊りこまれて花が開くように笑った。

 女に連れられて部屋を出た彼は、厨房の向かいあたりの壁際に佇んでいるライアンを見つけた。腕を組み、心もち頭を下に向け、居心地が悪そうに体を動かしている。
 二人が直接会話を交わすのは、王の外出時と大きな行事の際、警備上での用向きがほとんどだ。剣の練習時などで顔を合わすことがあっても、彼らが話をすることはあまりない。王の変事はサンジェルマンには報告されていないが、ライアンの物憂げな顔を見た彼は何となく悪い予感がした。サンジェルマンは女をさがらせ、ライアンの元に着くまでに思いつく限りの可能性を探しあぐねる。ライアンが彼に気づいて黙礼した。
「早い出城ですね、ライアン殿」
 彼の前では心の思案を全てひた隠し、彼は鉄壁の柔和な笑顔で応対した。ライアンは壁から背を離し、一瞬だったが作った笑顔を彼に見せた。
「そちらこそ。今日は早いな」
「ええ、ちょっとした所用がありまして」
 その時、二人のいる斜め前にある厨房の扉から女たち数人が出てくるのを目にし、ライアンが開きかかった口を閉じた。厨房の女たちは彼らを見つけて深く頭を垂れ、外へ出る通用口の方に忙しそうに歩いていった。
 サンジェルマンがライアンのもう一歩近くへと近寄ると、彼が小声で言った。
「食堂へ行こう。私はまだ朝食をとっていないのだ、そちらで話そう」
「ええ」
 サンジェルマンは、身を翻したライアンの左側に並んだ。
 食堂の扉を開けると、中には女が一人おり、食堂のテーブルを拭いている最中だった。食堂内はまだ随分と冷えていた。
「お、おはようございます!」
 彼女は二人の登場に驚いたようだったが明るく笑い、彼らを迎えた。ライアンは彼女に視線を走らせただけなようで、サンジェルマンは微笑んで彼女に応えた。
「少し早いが、食事は出るか?」
 ライアンが問うと、彼女は机を拭いていた雑巾を後ろ手に隠して答えた。「はい、ございます。お二人分ですね?」
 ライアンがサンジェルマンを見たので、彼はライアンを見て微笑み、女に頷いた。女は返事をし、続き部屋にと姿を消していった。
 テーブルに向かい合わせで座った二人は、女がいなくなると何となく気詰まりとなった。サンジェルマンはライアンが彼の視線を避けて食堂内に目を向けるのに気づいた。夜明け前の暗い部屋に、照明は弱々しく、外の雨の音が静かに聞こえてきている。

 外の見えるはずもない木枠がはまった窓を見つめるライアンに、サンジェルマンはさりげない口調で声をかけた。「ライアン殿、私に話とは?」
「え? ああ、そうだな。いくつかあるのだが――まず一つは、後宮でのことだ。なんといったか、新しく入った王の――」
 ライアンが助けを求めるようにサンジェルマンに続きを委ねる。
「ジェニー、ですか?」
「ああ、そうだ、そんな名前だ」
「彼女がどうかしました?」
 ライアンが話を続けた。
「そのジェニー殿だが、後宮内の階段で足を滑らし、ケガをされたそうだ――とは表向きの事情だが、実際は、背後から誰かに引っ張られて階段を滑り落ち、手足を負傷したらしい。皆は、他の妾の誰かが嫉妬にかられて手を出したのだとみなしている。その線が濃いだろう。幸い、骨折はしなかったようだが足を痛めて動けぬそうだ」
「そうですか、動けない。……彼女には気の毒ですが、大けがでなくて何よりでした」
 ――ジェニーに嫉妬するほど、彼女は王の訪問を受けていないのに。なんと浅はかで、恐ろしいことを。
 王の身辺警護を担っているがゆえに王の妾たちの身辺に起きた問題にも取り組まねばならない立場にいて、女同士の諍いなどに関わり合いたくないだろうライアンに彼は同情した。だが、正義感も自尊心も強いライアンへの同情はおくびにも出さず、彼はあくまでジェニーに同情したような素振りを見せることに徹した。
「ああ、そうだな。今後は……彼女自ら身辺に気をつけていただくしかない。彼女が負傷した件は、女官長が王にお知らせするそうだ」
 ライアンが少し言いよどんだのは、彼が正義感と事件の不本意な顛末の間で葛藤したからだろう。そして、この事件はあくまでも事故として処理され王に報告されるのだと、彼の言葉でサンジェルマンは判断した。
 そういうことであれば、自分からは何も言うまい。
「そうですか。承知しました」
 サンジェルマンの返事にライアンが満足そうに頷いた。

 彼らの話が途切れたところ、さっきの女がパンの籠と卵と替えの灯りを、もう一人の女が盆に載せた皿を持って隣室から出てきた。楕円形の小麦パン、ゆで卵、塩漬け肉の薄切り二切れ、厚切りチーズ、苺ジャム、ミルク、水。小麦パンとミルクは肩書きを持つ身分の者に出される高級食材だ。温められたミルクの湯気とチーズの芳醇な香りが二人のいる空間に漂う。
 灯りが取り換えられた食堂はさっきより随分と明るくなり、女二人は皿をそれぞれの前にきれいに整えてならべた。給仕し終わった彼女らは部屋の隅にいって、待機する態勢に入った。
 ライアンが彼女らの存在を気にするかと思ったが、サンジェルマンの前で彼は口を開いた。
「それと、もう一つ。昨夜遅くに衛兵の一人を拘束した。王の室内剣技場に入ろうとするところを見回りの兵らが捕らえたのだ。朝食室に置かれた呪いの手紙や王の座椅子の傷、庭園の垣根損壊。運良く王が気づかれる前に全てを伏せられたが、数ヶ月前から続いていた王へのその種の嫌がらせは全て、そやつの仕業と判明した。これで、我々もやっと胸をなでおろしたところだ」
「おお、ついに犯人を挙げられましたか! ご任務ご苦労様でございます。私もこれでようやく安堵できます」
「ああ。貴公には多大な協力をいただいた。かたじけない」
「いいえ、私は何も。ひとえに御隊のご功績でしょう」
 彼が穏やかな笑みを向けるとライアンは一瞬戸惑ったようだが、すぐにいつもの面持ちに戻った。
「今、その衛兵の出身を特定しているところだ。つきとめ次第、貴公にもお知らせしよう」
「ええ。お願いいたします」
 それから二人はやっと、用意された食事に手をつけ始めた。
 水差しになみなみと注がれた水の水面を眺めたサンジェルマンは、戦場から帰国の途にある軍と共にいたジェニーが決して自分の手から水を受け取らなかったのをぼんやりと思い出した。
 あれだけ反抗し脱出を図っていた彼女が手足を負傷して動けないという。哀れではあるが、体の自由がきかずに部屋でおとなしくいなければならないとは、彼女にとっていい薬だ。

 無言で食事をそれぞれ進めていた二人だったが、サンジェルマンはふと、向かいに座るライアンが食事をしながらも何かを言いたげに機会をうかがっているのに気づいた。幼少時から彼に接してきていた彼には、ライアンがどんな時にそんな態度をとるのかをよく知っている。自分のことを話したいのだが躊躇しているのだ。
 サンジェルマンは顔をあげ、ライアンの後ろの壁に待機していた女たちに退室するよう、頭を振ってそっと促した。彼女らは静かに頭をさげ、壁沿いに隣の部屋へと歩いていった。
 物音に気づいたライアンが彼女たちの出て行くのを見送り、そして、肉片をつまもうとしているサンジェルマンを見た。ライアンは仕方なく、彼のお膳立てにのる事にしたようだ。
「先日、所用で久しぶりに君の家に寄らせてもらった。君の弟たちにも会ったぞ」
 サンジェルマン家とライアン家は昔から親交が厚い。彼が自分の実家を訪ねることに何の疑問も抱かず、サンジェルマンは、友に話しかけるかのような口調にかわった彼の言葉に頷いた。
「私はしばらく帰省していないのです。弟たちは元気でしたか?」
「ああ、皆そろって元気だ。末の弟は再来月、成人されるそうだな。聞いたところによると、君は一年以上も家を留守にしているそうではないか。帰省する時間が作りにくいかもしれぬが、何とか工面してやれ。お母上が心配されていたぞ?」
「私もそうしたいのはやまやまですが。時間はなかなか捻出できずにおります。お気遣い、感謝いたします」
 自分の身を案じてはいるだろうが、両親は、王の腹心であり側近となった息子の帰省を期待してはいない。ライアンの本当にしたい話が出てくる前の前哨戦として、サンジェルマンはその話題を捉えていた。
 塩の味でいっぱいとなった口を水で満たそうと彼が水差しに手を伸ばすと、ライアンが代わりにそれを持ち上げた。礼を言おうとサンジェルマンがライアンを見ると、彼が突然たずねた。
「きみは、結婚しないのか?」
「えっ?」
 二人の間で私的な立ち入った会話は過去何年もしていないのに、何のつもりかとサンジェルマンが彼を怪訝に思って見ると、彼はまた同じ事をきいた。
「きみはまだ結婚しないのか? 上の弟が近々結婚すると聞いたが」
 ぶしつけな質問にあまりいい気分はしなかったが、サンジェルマンは不快さが顔にのぼるのを即時に抑え、彼にさらっと言い返した。
「ライアン殿も独り身ではありませんか。それに、私より年上だ」
「私?」ライアンは白目を大きくし、声を荒げた。「私は単に多忙なだけだ。好んで独り身なのではない!」
「私も、実家に帰る暇がないほど多忙なのです。貴公と同じですよ」
「サンジェルマン、君は――」ライアンが何かを言いかけ、短く息をついた。口角が下方に向いている。
 微笑みさえ浮かべて冷静に対応したサンジェルマンを、彼は面白く思っていないらしい。
 だが、サンジェルマンはライアンの機嫌を損ねたままにはしなかった。
「失礼な言い方をしてすみません。突然の個人的な質問に戸惑ったものですから」
 ライアンの目が真偽を問うようにサンジェルマンの瞳を貫いたが、彼はその視線から逃げようとはしなかった。そうすると、ライアンの瞳から次第に勢いが消えていった。
「サンジェルマン。私は、もし、もしも君が一生誰とも添い遂げないとしたら……非常に、心苦しく思う」
 最後の方は消え入りそうな声でライアンがそう告げた。彼の亡くなった妹でサンジェルマンの恋人だった、フランソワの事を言っているのだ。彼女に操をたてて、彼が一生を独身で過ごすつもりなのかと心配しているらしい。
 行間の意味を読み取ったサンジェルマンは、彼に対する不快さを忘れ、笑いながら否定した。
「そんなつもりはありません、ライアン殿が考えているような理由からではありませんよ。私も、自分を支える家族は欲しいのです。私が独り身でいるのは、ただ……王が以前の王に戻られる日が来るまで、私は妻をめとらないと心にずっと決めているからです。私は今の王を心配しているのです。亡くなった女性に心を捧げているから独身でいるなど、決してありませんから、どうか、そのような心配はなさらないで」
 ライアンの懸念を一掃するかのように、彼はまた笑顔で言った。ライアンは納得のいかない態度を見せていたが、サンジェルマンが、信じてほしい、と言うと、一応の納得を示した。
「そうまで言うなら、君を信じることにする」
「そうして下さい。さあ、早く食べましょうか」
 ライアンの注意を食事にひきつけるよう、サンジェルマンは明るく言った。


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