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5.生と死の境界線

2010.01.06  *Edit 

 目立つ容貌でないのは得だ、とサンジェルマンは常日頃から思っている。特に、身分を知られずに動き回ることが必要とされる、彼のような立場では。
 大陸のどこを旅しても、見上げるほどに背も高くなく、灰色の混ざった金髪に青い瞳という外見の男は、街中に溢れている。そしてそれは、二日に渡った闘技大会を終え、王城の大広間で行われている宴の場でも同じだ。サンジェルマンが気配を消し、人々の背後をすり抜けていっても、気づかれることはほとんどない。
 サンジェルマンは、部屋の奥に席を取る王と王妃を見た。王はラニス公と会話しており、王妃はラニス公の母親と顔を寄せて話をしている。和やかにも見える彼らの様子だが、普段はめったに警備に出てくることがない近衛隊隊長が彼らの後方に控えており、昨日起こった暗殺未遂の緊張感を今も感じさせる。
 新しい酒と料理を手にした給仕たちが大広間の入口に現れ、サンジェルマンは彼らの一人一人に目を向けた。目は無意識に黒髪の男を探すが、該当する男はいない。どの給仕も、今夜の宴が始まって以来、一度は見かけた顔だ。
(男がのこのこと王城に現れるはずもないな。今頃は安全な場所に身を潜めているだろう)
 会場をぐるりと見回したところで、サンジェルマンは入口から顔を出したライアンに気づいた。彼が、わずかに首を左に傾ける。サンジェルマンを呼んでいるのだ。
 前に立ちはだかった中年の女性を笑顔でやり過ごし、サンジェルマンは壁際に沿って静かに移動する。出席者たちの談笑で彼の足音がかき消される。彼が王にもう一度振り返ると、王は杯に口をつけながら、ラニス公の話を聞いているところだった。

 サンジェルマンが近づくと、ライアンは彼を室外に招き寄せた。指を性急に動かす動作が、ライアンの苛立ちを物語っている。
「新しい情報でもありましたか?」
 サンジェルマンの問いに、ライアンは無念そうに息をついた。
「男が死んだ」
「どの男です?」
「王に矢を放った男だ。口を割るまで今少し生かしておきたかったが……もたなかった」
 第三試合に出場した、筋骨隆々とした、若いわりに額が禿げ上がっていた男だ。数年前にヴィレールに併合された東南部の国境に近い地方出身で、妹が肌を売るヴィスコンデールの娼館で数ヶ月前から用心棒として働いていたそうだ。
「それは残念なことを。では、今回の黒幕はまだ分からないのですね」
「そうだ。男が誰かに金を貰い受けて今回の事件を起こしたのは確かだが、娼館でそれを突き止めるのは無理があるだろう。男の妹はとっくに行方をくらましている。だが――」
 ライアンが声を落とし、サンジェルマンは眉を寄せた。ライアンが小さく咳払いする。
「どうやら、男とクレマン家の次男に直接的な接点はないようだ。彼は男を救おうと人質まで取ったのに、男は、彼が見も知らぬ自分を庇おうとする理由が皆目見当もつかない、彼とは無関係だ、とずっと主張していた。
 我々はそれを信じようともしなかったが、ここへきて、私にはどうにも腑に落ちない点がある。そういえば、彼は男の解放を要求したわりに、王に拒否されるとあっさりと引き下がった。仲間であるはずの男を見捨てたと言っていい。しかも、ユーゴ殿が聞いたところによると、男は『彼女の力が肥大化する前に始末した方がいい』と発言したそうだ。もしやとは思うが、クレマン家の次男は、最初から、彼女の命が目当てだったのではないか?」
「彼女を殺したところで、彼らが何の恩恵を受けるというのです?」
「それは分からぬが」と、ライアンはわずかに非難めいた視線をサンジェルマンに向ける。「彼女の死が、王に打撃を与えられると考えたのだろう」
「ですが、クレマン家は――」ライアンが小さく首を振ったため、サンジェルマンは言葉を止めた。
「彼女の兄が取引相手だからといって、クレマン家次男が彼女に義理立てするとも限らぬだろう。
 二人にどの程度のつきあいがあったのかは不明だが、クレマン家当主によれば、次男は金に困っていたということだ、大金を積まれれば、仲間の目を欺いて、仲間の妹であるジェニー殺害を引き受けてもおかしくはない。問題はその依頼主は誰かということだが、その――クレマン家次男を名乗った男を捕らえられれば、もう少し事態は解明できそうなのだが」
 ユーゴにクレマン家のマルセルだと名乗った、謎の黒髪の男。死んだ本物のクレマン家の次男と似通った容貌をしていたそうだ。おそらくは、二人は何らかの形で関わっている間柄だろう。
 ジェニーが、男と彼の妻と名乗った女に、兄ローレンが無理やりに拘束されるのを貴族席で目撃したそうだ。ローレンが二人に抵抗していたことから考えると、あくまで想像だが、彼はクレマンたちの企みを知らされずにその場にやって来て、事件に遭遇した可能性が高い。さらに言えば、彼らは今回の件で仲間割れをし、ローレンは彼らにとって不都合な存在として、口封じのために既に殺されているかもしれなかった。

 状況証拠だけをつき合わせればライアンの推理は正しいのだが、サンジェルマンは、どうしても納得がいかなかった。
 なぜ今、国家に背いた塩取引に密かに協力していると疑われている時期に、クレマン家はわざわざ自らが目立つような事件を起こすのだろう? 王の暗殺はそれが未遂で終わろうとも大罪で、暗殺犯の出身である家は例外なく、一家滅亡の憂き目に遭う。塩取引で今から富を築きたいはずの一家が、どうしてそんな愚かな行為に走るだろう?
「死んだあの男は、本当にクレマン家の次男なのですか? その行方不明となった男こそが本物ということは?」
「一年半前にクレマン家の長男が死んだ際、その葬儀で私は彼に会っている。それに昨夜、当主である彼の父にも死に顔を確認させた。間違いはない」
「そうですか……」
 謎は深まるばかりだ。現時点で手元にある情報を繋ぎ合わせても、サンジェルマンを納得させられるだけの答えは導き出されない。
 ちょうどそこへ黒髪の給仕が通りかかり、二人は揃って彼に注意を移した。しかし、給仕はサンジェルマンが数年来知る男だ。男が大広間に消えていくと、ライアンが床を見つめ、呟いた。
「黒髪の男の捜索に全力をあげよう。真相解明には、それしか方法がなさそうだ」
 男が死んだ、と告げたときより、ライアンはずっと口惜しそうだ。
 そうですね、とサンジェルマンは同意し、彼とともに大広間に足を再び戻す。涼しい廊下から入ると、大広間は人々の熱気でむせかえるほどだった。


 宴への出席者を見たところ、サンジェルマンの見知らぬ顔、王城へ来たのがまったくの初めてという出席者は十人足らずだ。ただし、その全員が正式な招待状を持ち、誰かの成人した息子だったり、親類筋だったりする。身元が不確かで正面から疑って然るべき者は、今夜の大広間にはいない。
 つい先ほどから宴に参加していたユーゴが妻と分かれ、人々の波間を泳ぐようにして挨拶をして回っている。彼は社交場では人気者だ。彼が寄る先々で、明るい笑い声が湧き上がる。
 ユーゴはジェニーを連れていなかった。彼女も今夜の宴の招待客ではあったが、昨日の事件のあとだ、精神的な動揺は今も続き、宴を欠席したのだろう。アリエルと接する時間も取れない今、サンジェルマンにジェニーの状況は測りしれない。
 会場を一回りして戻ってきたライアンと入れ替わるように、近衛隊隊長が出席者たちの間に入っていく。王妃の席の後方で、ライアンが右肩をまわしているところを見ると、会場内で特に問題は見とめられなかったようだ。
 サンジェルマンは、王と話をするために並ぶ人々をざっと見た。王と接見するには丸腰でいる必要があり、当然、どの男たちも剣は身に着けていない。彼らに同伴されている女たちには、羽の付いた扇くらいしか持ち物はない。指に重りのようにはまる大きな宝石のついた指輪が武器になりそうではあるが、完璧な装いに飾り付けられた彼女たちは、自分たちの大切な石が傷付くような行為を決して許さないだろう。列の最後の方には、いつのまにかユーゴが並んでいた。

 ユーゴの順番が近づき、サンジェルマンは王の脇に静かに移動した。ユーゴが問題行動を起こすような非常識な人間ではないと理解してはいたが、彼が王に何を言い出すつもりなのかが気になった。思いは同じなのか、ライアンも王の真後ろに歩み寄ろうとしている。
 ユーゴが目の前に跪いても、王の顔色は変わらなかった。ただ、隣の王妃はひきつった表情を隠せなかった。彼女の横に並ぶ侍女たちにもユーゴに対する敵意のような鋭い感情が浮かんだが、彼女たちはすました態度をとることで、それをうまく覆い隠すことに成功した。
「おお、昨日の立役者、ユーゴ・ベアール殿ではないか」
 王はユーゴに顔を上げさせた。
「お会いできて光栄にございます。王、そして王妃様には、ご機嫌麗しゅう」
「堅苦しい挨拶はよい。昨日は見事であった。さすが、剣の誉れと名高いベアール家だけのことはある。ちょうど、おまえとおまえの姪には褒美を取らせようと考えておったところだ」
 王妃の伏目がちな視線が、ユーゴの頭を飛び越え、後ろに並ぶ人々に届く。彼女の手が不安そうに黄金のドレスの前で動いている。彼女はそこにいるはずもないジェニーの姿を探しているのだ、とサンジェルマンは見当をつけた。
「お褒めに預かり、光栄です。ですが、姪も私も、王の御為に当然の事をしたまでにございます。そのようなこと、どうかお気になさらないよう」
「遠慮は無用だ、おまえたちの働きは賞賛されて然るべきもの。欲しいものを何なりと申しつけるがよい」
「ははっ。ありがたき幸せに存じます。あいにく、姪は昨日の事件のことで動揺が激しく、この場からご容赦いただきましたが、姪にも王からのお言葉を伝えておきます」
 王が細く唇を開いて笑った。
「そうしろ。おまえから彼女が希望する品を訊いておけ」
 サンジェルマンの目にも王のジェニーへの慕情が読めなかったのだから、ほかの人々も同じだろう。
 ユーゴは胸に手を当てて恭しく王に頭を垂れ、次の男に順番を譲った。


 サンジェルマンが大広間を一巡りして王の元へ帰ってくると、ちょうど、王妃が侍女たちに付き添われて宴を去ろうとしているところだった。王妃の頬は赤らんでいるが、気分が悪いのか、口を白い布で押さえている。侍女の一人が、黒い小さな扇で王妃を扇いでいた。
「王妃様はお加減がすぐれないのですね」
 サンジェルマンの心配を鼻であしらうように笑うと、王は言った。
「なに、いつまでも娘気分が抜けないだけだ。俺の隣が気に入らぬのだろうよ」
「また何か、意地悪なことをおっしゃったのではないでしょうね?」
 最近の王は、サンジェルマンがこれぐらいの軽口をたたいたからといって、神経質に怒鳴ることはほとんどない。王は目を細めてサンジェルマンを見つめると、ふん、と毒づいた。
「妃を見ろ、泣いてはおらぬだろう。――少なくとも、この室内で涙は見せるな、と言うてある」
 サンジェルマンは、出席者たちに心配そうに声を掛けられながら退室する王妃に振り返った。彼らにいちいち返事をしているので、彼女は多分泣いてはいない。
 サンジェルマンが王に注意を戻すと、王は顎を手で押さえながら、宙の一点を見つめていた。
「王妃様と喧嘩をなさったのですか?」
「あの女が俺と喧嘩できるはずもなかろう? 妃は俺に何も口答えできぬことが耐えられず、自らを哀れみ、宴も列席者も捨てて退室するのだ。あの女はこの国の妃でありながら、八年ぶりに再開された国家行事を祝うこの宴に、何の敬意も払っておらぬと見える」
 サンジェルマンは王の言葉に感銘を受けた。
 最近の王は、自分が王であること、王として為すべきことを、人一倍、自覚している。いや、最近ではない、彼ははるか昔から、ほかの誰よりも王位に敬意を示し、即位する頃には王としての自覚に目覚めていた。混迷した数年のときはあったが、王はようやく、即位した当時の誇り高い彼に帰りつつあるのだ。
 サンジェルマンが王を感慨深く見つめていると、それに気づいた彼が顎から手を離した。サンジェルマンを見て、不審そうに彼の眉が動く。
「それでも、王妃様が気分を害されるにはそれなりの理由があるでしょう。何をおっしゃったのです?」
 王が淡々と答えた。
「妃は、俺にジェニーの様子を見に行けと言うたのだ。暗殺犯とはいえ、人を傷つけて平気ではいられないだろうから、とな。自分も彼女を心配しているが、彼女はきっと俺に会いたがっておるゆえ、この宴の喧騒にまぎれて、俺にジェニーに面会しに行ってはどうか、と言いおった」
「……王妃様はお優しい方ですね」
「気弱な妃にしてはよう言うたと思うが、俺はそれを優しいとは呼ばぬ。女に会うために俺に宴を抜け出して小城に行けなど、仮にも一国を預かる王の妃が言うことか?
 それゆえ、ジェニーが心配ならおまえが面会に行け、と妃に告げた。自分の身を心底心配してくれるのなら、ジェニーはそれが誰であろうと喜ぶだろう。俺は行く気がないゆえ、おまえがジェニーを訪ね、彼女の労苦をねぎらってやるがよい――そう言うたところで、あの女は俺に顔をそむけた。具合が悪いと聞いたのは、そのすぐ後だ」
 サンジェルマンにも、そのときの王妃の青ざめた顔が容易に目に浮かぶ。王の突き放した態度に、それこそ、王妃は心臓を矢で射抜かれたような衝撃を受けたことだろう。

 新しい酒を注がれ、王が杯を軽く舐めるようにして味を確かめた。彼の体に染み込んでいる習慣の一つだ。その舌で、酒に異質なものが混ざっていないかどうかを確認している。
 王が酒を口に含んだあと、ぽつりと言った。「あの女は乗り越えるだろう」
 サンジェルマンは、ジェニーのことですか、と問い返そうとして、口をつぐんだ。王が杯をサンジェルマンに掲げていた。
「そうは思わぬか?」
 サンジェルマンは答えに迷った。奇妙だが、確信めいた予感があったのだ。王にここで同意すれば、王とジェニーの間には簡単には埋まらない、暗く深い溝ができるだろう。
 いまだに彼女の存在を認めきれないサンジェルマンは、彼女自身が王から去ってくれるような状況を、どこかで常に期待していた。そしてそれは、たった今訪れたこの機会に彼が口をつぐむことで、そのきっかけとなるように思えてならない。
 誰かの手がサンジェルマンの前に伸び、杯が差し出された。サンジェルマンがそれを手に取ると同時に、給仕が白く濁った酒を満たす。強い、発酵酒の匂いが鼻についた。
「八年ぶりの闘技大会に」
 王が瞳を艶かしく輝かせ、サンジェルマンの杯に自分の杯を軽く当てた。その小気味よい音が頭の中に響きわたったとたん、サンジェルマンの口から、思ってもみない言葉が自然に押し出された。
「彼女はいずれ、この危機を無事に乗り切るでしょう。ただし、何の誤解もない状況で、というのが前提条件です」
「……誤解だと?」
 王が意外そうに目を見開くのと同様に、サンジェルマンも自らの発した発言に驚く。
「はい」
「誤解するような状況があるか?」
「彼女は公然と王から捨てられたわけですし、そのあたりを彼女がどう捉えているのか……誤解がないとは私には言い切れません」
「俺があの場で、妃でもないあやつを助けられるはずがなかろう? それぐらい、ジェニーも理解しておるはずだ」
「ええ――そうだと良いのですが」
 なぜ、ジェニーの味方となるような意見を口にしてしまったのか。
 サンジェルマンは不思議だった。だが、なぜか、黙っていることの方が悪だと、そう切に感じた。
 王はあくまで怪訝そうにサンジェルマンを見つめ、そして、呆れたように首を振る



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