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3.王城に住む女

2009.08.23  *Edit 

 ジェニーが小城に入って、約二週間が経過した。王はこれまでに何度か彼女を訪ねているが、彼女はほとんど外出せず、ひっそりと暮らしているので、彼女の存在感はそれほど際立ってはいない。
 心配された王妃の反応だが、彼女は常に憂鬱そうな顔つきではあるが、表立っては文句の一言も口にしないそうだ。どこの君主にも一人、二人の愛人がいるもので、初心な王妃も、夫の愛の対象は妻の自分ではないと受け入れ始めたらしい。そんな状況下では、王夫婦の間は依然として一定距離が保たれたままだが、どちらも改善する気はないようだ。二人の不仲が続けば、「王妃様より先にジェニーが男児を産むかもしれない」と女官長は嘆き、そんなことが起こってはならない、とジェニーに怒りをあらわにする。
 サンジェルマンも女官長とまったく同意見だ。というより、王妃より先であろうと後であろうと、ジェニーには、跡目争いの種となりえる、王位継承権のある男児を産ませてはならない。
 王は避妊を怠りはしないはずだった。仮に今ジェニーが妊娠すれば、彼女の胎児は当然のこと、彼女自身の命さえ、王妃派に狙われかねない。ジェニー暗殺が、今よりもっと現実味を帯びるのだ。王はその危険性を理解しているだろうから、ジェニーの身を守るため、彼女の妊娠を未然に防ぎたいはずだ。以前、彼女の子を流す決断に迫られたときの王の動揺を考えれば、王は彼女に堕胎させる選択も取りたくはないだろう。

 その朝、王がだしぬけに言い出した命令ともいえる指示は、とりわけ女官長の猛反対を招いた。しかし王はというと、彼女に怒りもしなかったが、彼女の説得に応じる素振りもみせなかった。彼にとっては、単に決定事項を伝えたに過ぎないのだろう。
 興奮状態の女官長を侍従長の手に託し、彼ら二人を執務室から追いやると、サンジェルマンは、ぼんやりと中庭を見下ろす王の背中を眺めた。念願叶ってジェニーを手元に呼び寄せたわりには、王が浮かない顔をしているのが気がかりだ。彼女が入城するのを待っていた頃の方が、王はずっと明るい表情をしていた。
「おまえたちは騒ぎ過ぎだ」
 王は部屋に残ったサンジェルマンを冷たく見て、軽く首を振る。
「騒ぐのも当然ですよ、誰だとて驚きます。ジェニーに剣を習わせようなど……」
「何が問題だ。あの女は元々、剣の覚えがあるではないか。女だてらに、と言うのであれば、世にはいくらでも女の傭兵がおる」
「おお、まさか、彼女を兵士として育成し、王の身辺を守らせるとでもおっしゃるのですか? お戯れを! 王、何があったのです? なにゆえ急に、このようなことを?」
 王が窓面に背を預け、再び中庭に視線を落とした。
 朝のこの時間には、ジェニーの娘が乳母たちに連れられて中庭に出てくる。今はまだ甲高い笑い声が聞こえないが、もう間もなくだ。
 彼女は目覚めてすぐに母親を求めて大泣きするらしく、その大音量に辟易とした女たちが、ある朝、苦肉の策として彼女を外へ出したところ、彼女はついに泣きやんだそうだ。それ以来、中庭を転がるように歩く幼女の姿は、王城の朝の風景として、人々の目を和ませている。
 サンジェルマンを見つめ、王が大きくかぶりを振った。
「急ではない。以前より、考えておったことだ」
「彼女に剣を握らせるのは危険です」
「俺の命を狙う、と言いたいか?」
「いいえ、それはないでしょう」
 サンジェルマンは、ジェニーが王の結婚を知って、動揺していた様子を思い出しながら答えた。
 王が訝しそうに目を細める。
「王、彼女は武器を手に周囲を脅し、娘を奪い返して、ここを再び逃亡しようと考えるかもしれませんよ」
「だが、それはできぬだろう」
「無理ですが、彼女ならやりかねない。そして、それをもし実行したら、それはすなわち、彼女の死を意味します」
 王は返事をしなかった。けれども、サンジェルマンの意見に同意したに違いない。

 中庭にひときわ高い声が響いて、二人は、ジェニーの娘が朝の散歩に現れたことを知った。いつものように、王は窓際から離れ、部屋の中央に歩いてくる。
 娘が王城に入って一ヶ月以上も経過し、王妃でさえも彼女と何回か会っているというのに、王はいまだに彼女との対面を果たしていない。王が子ども嫌いだという噂が城内に蔓延し、彼が頑として娘との対面を拒否するたび、王城の住民の不審を買っている。
 王は窓の外を指差して、サンジェルマンの前で宣言するように言った。
「あの娘が俺の手の内におる限り、ジェニーが武器を手にはむかうことはない」
 その揺ぎない態度で、サンジェルマンは自分の説得があえなく失敗したと気づかされた。
 王がサンジェルマンに背を向け、サンジェルマンはその背中に問いかけた。
「王、なにゆえ、そこまでして、彼女に剣を習わせようとなさるのです?」
 王は壁際の椅子に腰を降ろすと、わずかに頬を強張らせた。
「あの女にも暇つぶしが必要だ」
「暇つぶしなら、若い女にふさわしいものが他にいくらでもありましょう。剣など、物騒な。誤って怪我を負うかもしれませんよ?」
「ジェニーは剣に熱中する。危険だろうが物騒だろうが、それが、あの女にふさわしいものだ」
 王がそれまでとは違う、やわらかい笑みをたたえるのを見て、サンジェルマンは口をつぐんだ。ジェニーが剣術に熱を入れるだろうことは、容易に想像できる。いつだったか、アリエルが、狩りの館で偶然に見つけた剣をジェニーが手に取り、嬉しそうにしていたと話していた。もしかしたら王は、ジェニーに日々を楽しく送らせるために、周りの反対をものともせず、彼女に剣の手習いをさせようと言っているのかもしれない。自分以外の者を思いやっての発言だとしたら、いい兆候ではないだろうか。
「指導はライアンがすればよい」
 だが、王の口からライアンの名が出たことで、サンジェルマンは愕然とした。てっきり、ジェニーの身内で剣の達人でもある、ユーゴ・ベアールの名が出てくると思っていた。
「ライアン殿ですか?」
 サンジェルマンの驚きを予想していたように、王は頷く。「そうだ」
 ライアンは近衛隊の中でも剣術に長け、後輩の指導者としても定評のある人物だ。王の練習相手も務めているので、王の口から彼の名が挙がるのは、実は、それほど不思議ではない。女の暇つぶしの為であろうと、王の要求とあれば、彼は確実に最後まで遂行するはずだ。
 ただし――。
「不満そうだな」
「彼は多忙な立場におります。一人の女に剣を教えられるような時間はないでしょう」
 ライアンはジェニーを毛嫌いしている。サンジェルマンと違って、王がジェニーと別れる最後の瞬間までを直接目にしてきたせいもあるのか、彼はジェニーの名を耳にするたび、怒りと不快感で身を震わせるそうだ。近衛隊はジェニーの護衛につかなくていい、と王が言ったとき、ライアンは、当然だ、と王の英断を喜んでいた。裁かれるべき女をなぜ保護する必要があるのか、と、彼は今でも思っているだろう。その彼が、喜んでジェニーに剣の指導をしたいはずがない。
 サンジェルマンの思いを知ってか知らずか、王は小さく笑う。
「では、ベアールに頼むか?」
「ベアール殿は、なりません」
 王が興味深そうに、サンジェルマンを見返した。
「ほう? おまえは、ライアンよりベアールの方を薦めると思うておったが?」
「彼はなりません」と、サンジェルマンはきっぱりと言い切った。「彼は姪のジェニーに会うと理由をつけ、ここ最近は特に、王城に足繁く通っております。しかし、ほとんどの場合、彼はテュデル宮のジェニーのもとに長居はせず、本城に入り浸りなのです。彼にはこれ以上、王城へ立ち入る正当な理由を与えてはなりません」
 ユーゴ・ベアールが王城の人々に愛想良く話しかけるおかげで、彼の姪で王の愛妾ジェニーへの反感が薄れているのは事実だが、大した用事もないのに、王城勤めでもない者が城に頻繁に顔を見せるのは、決していい傾向ではない。
 王は、サンジェルマンが詳しく説明をしなくても、彼の意図するところを理解したらしい。
「あの男は女の人気取りに勤(いそ)しんでおると思うたが、ふん、その手の野心があったか」
「どの程度の野心かはまだ分かりませんが、王の御子を産んだジェニーは、ベアール家にとって貴重な王家との絆です。王家との縁は家の繁栄に繋がりますゆえ、彼がジェニーの立場を最大限に利用しようと考えたとしても、少しも不思議ではありませんよ。そしてもし、彼女が男児でも産んだら――」
「おまえの懸念はわかっておる。その点は抜かりない」
 苦々しげに王は言い放ち、中庭から聞こえてくる高らかな笑い声に気をとられ、さらに顔をしかめた。
「王、ジェニーの身を心配なさる前に、王妃様との間に早くご世継ぎをもうけることです。女官長が、王は王妃様よりジェニーを訪ねる方が多いと嘆いておりましたよ」
「あの陰気な顔をした、幼稚な女を抱け、と?」王は大げさに嘆くふりをした。
「どんな方であれ、王妃様は王の御子を産んでくださる方なのです。ご世継ぎが必要なことは、王もよく分かっておいででしょう?」
 サンジェルマンがたたみかけるように言うと、王はふてくされたように、上目づかいに彼を睨んだ。
「子ができぬのは、俺のせいだけではない」
「わかっております」
 王が天井を見上げ、いまいましそうに何かを罵った。
「ならば、あの女の化粧をもっと濃く、派手にしろ! 寝所でも、それなりに成熟して見えるようにな!」
 はい、とサンジェルマンが微笑むと、王はうらめしそうな目つきで彼を見上げ、短いため息をついた。
「では今宵、後宮をお訪ねいただけますか?」
「明日だ」
 吐き捨てるようにそう言ったあと、王はサンジェルマンをじっと見つめた。
「ジェニーには剣を習わせる。ライアンに、俺が子どもの頃に使用していた剣を渡しておけ」


 サンジェルマンの予想以上に、ライアンは王の要望を彼から伝えられると、あからさまに嫌悪感を表した。そして、断罪されて然るべき女を王が特別扱いすることを嘆き、王にそんな行動をとらせるジェニーに対して再び、ライアンは強烈な怒りを爆発させた。彼は、絶対にお断りだ、と声を荒げ、サンジェルマンが彼に先立って話をした女官長のように、なぜ王の翻意を成し遂げなかったのか、とサンジェルマンを激しく責めたてた。
「彼女に剣を習わせるのは、彼女に自分の身を守らせるためです。彼女個人には、一人の護衛もついていないことをお忘れですか?」
 サンジェルマンはライアンを説き伏せようとそう言っておきながら、それこそが、王がジェニーに剣の手ほどきを受けさせようとした本来の理由ではないか、と不意に思った。彼女がまだ後宮の住人だった頃は、一歩でも外に出れば、衛兵がついてまわったものだ。だが今、小城の周囲をまわる衛兵は数多くいても、ジェニーに個人的に付く衛兵はいない。それは、緊急時以外は彼女のために近衛兵を遣わさない、という王の指示に基づくものだ。
 サンジェルマンの指摘を受け、ライアンが呆れたように両手を上げた。
「当たり前だ、あの女に近衛隊から護衛を出すものか! サンジェルマン、どうしてもあの女に剣の指導をつけるというなら、ベアール殿に頼め! 王も、身内の彼に彼女を任せた方が何かと安心だろう!」
「王は貴公を指名された。王の信用は貴公にあるのです」
 忠義なライアンが口の中で唸り、サンジェルマンの前でぐるぐると円を描いて歩き回る。
 サンジェルマン自身、王の希望を叶えることに完全に賛成しているとはいえない。まだまだめずらしいといえる、女に剣を扱わせることや、有能なライアンを指導にあたらせることは、良くも悪くも、皆の関心をジェニーに集めるだろう。その一方で、彼女に剣の覚えがあれば、その身がやたらに狙われる機会も減り、多少は安全になるとも考えられる。王の心労も少しは軽くなるはずだ。だが、サンジェルマンが最終的に王の要求をのんだのは、王が王妃のもとを訪ねるという「約束」の交換条件のようなものだ。
「ライアン殿、ジェニーにと、王が昔使っておられた剣を預かっております。後ほど、貴公にお渡ししましょう」
「私は引き受けるとは言っていない」
 ライアンは足を止め、ひきつった顔でサンジェルマンに反論する。彼の顔に去来する表情を見て、サンジェルマンは彼のやるせない思いを切々と感じた。
 だが、彼が王の要望を聞き入れるしかないことは、サンジェルマンには既にわかっていた。意を決したように、ライアンが振り返る。
「わかった。いいだろう、王のご意思を尊重する。あの女が気まぐれで剣を習いたいというなら、稽古をつけてやろう。されど、万が一、私の手元がくるって女の心臓を剣で貫いたとしても、それはあくまで事故ということ。それでも構わぬなら、私はいつでも師となってやる」
 ライアンは、抜けがけや不誠実な行為を許せない性分だ。脅し文句を口にしながらも、彼は王の期待を裏切れない。
 サンジェルマンとライアンの視線が宙でぶつかった。ライアンの目が訴える無言の反抗に、屈してはならない。サンジェルマンは彼に笑みを送った。
「貴公が引き受けたとなれば、王はさぞお喜びでしょう」
 ライアンの眼光がおとろえ、強張ったその顔が、上下に弱々しく揺れた。

 ライアンの了解を取りつけたその足で、次に、サンジェルマンは西館に向かった。今日もまたユーゴ・ベアールが王城を訪ねており、彼が女官長室に向かったと聞いたからだ。サンジェルマンは彼をテュデル宮に同行させ、彼を同席させた場でジェニーに会って、剣の指導の件を伝えるつもりだった。
 ところが、目的の女官長室は閉まっていた。ちょうど通りかかった女官長の小間使いによると、ユーゴは女官長や顔見知りの侍女と一緒に階下へ行ったそうだ。残念だが出直そうとした矢先、無人のはずの女官長室から床がきしむ音がして、サンジェルマンは小間使いを咄嗟に見た。彼女の目が泳いでいた。
「女官長! 私だ、サンジェルマンだ。ジェニーの件で緊急に話がある。ここを開けてくれないか!」
 サンジェルマンは、室内に女官長がいるとは考えていなかった。誰かいるとしたら、それはユーゴと彼の知り合いの女だ。それを分かっていながらも呼びかけたのは、情事を隠し身をひそめていたいユーゴでも、ジェニーに関する情報は知りたがるに違いないと思ったからだ。
 案の定、扉が内側から細く開けられ、隙間からユーゴが顔を出した。髪が乱れている。部屋の奥にも誰かがいるかもしれなかったが、もし女官長がいたなら、ユーゴは姿を隠し、彼女が先に顔を出しただろう。主人不在の部屋で事におよぶ彼の非常識さと節操のなさに、サンジェルマンは腹が立った。
「女官長はこちらにはおりませんよ、サンジェルマン様」
「彼女がいない部屋で、貴公は何をしている?」
 ユーゴはサンジェルマンの問いかけを笑顔で無視し、逆に質問した。
「サンジェルマン様、ジェニーに何があったのですか? 急な体調の変化でも?」
 サンジェルマンも彼の質問をあっさりと受け流した。
「ちょうどよいところで貴公に会った。ジェニーに用事があるのだ。私が一人で出向くわけにはいかぬゆえ、貴公にご同行願いたい」
「ジェニーにですか? ええ、喜んで!」
 ユーゴが目を輝かせ、廊下に飛び出てきた。

 その後、サンジェルマンはユーゴの執拗ともいえる質問をやり過ごし、ジェニーが王城に来た初日以降初めて、テュデル宮の玄関をくぐった。そして、二週間ぶりに再会したジェニーに驚愕した。彼女はおよそ信じられないほどにうつろな様子で、庭にぼんやりとたたずんでいる姿は、王の浮かない表情と重なりあう。
「ジェニー!」
 ユーゴの呼びかけに反応し、振り向いたジェニーが彼の隣にいるサンジェルマンにも気がついた。だが、無表情の彼女に笑顔がともることはない。
 娘と会えない日々がジェニーの精気を奪い、ひいては、王の精気も奪っているのだ。王の唐突な発言は、娘への執着からジェニーの目をそらし、彼女の精気を取り戻すためでもあったのだ。



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