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2.決意

2009.07.19  *Edit 

 ジェニーを迎えにラニス公地に発つ前日、サンジェルマンは女官長、侍従長とともに、ある一室で王妃の到着を待っていた。
 王夫妻が旅から帰宅して、まだ一週間だ。
 ラニス公地でジェニーを偶然に発見するという劇的な出来事が影響してか、王はここ最近、ずっと穏やかな面持ちだ。彼が王妃を見るとき、その顔に常に浮かんでいた苛立ちが、いつのまにか消え去っている。ところが、一方の王妃は、以前にもまして王に怯えた態度で接し、彼女の側から夫を遠ざけているように皆の目には映っている。王妃が語ろうとしないので真相は分からないが、ジェニーの出現だけが二人の不仲に拍車をかけたのではなさそうだ。
 数日前、女官長はサンジェルマンの実家でジェニーの娘カミーユとの対面を果たした。女官長は直前まで気乗りしなかったようだが、カミーユは物怖じせず、突然に現れた女官長に向かい、にっこりと笑いかけた。それから、サンジェルマンと初めて顔を会わせたときのように、女官長に小さな指のついた手を伸ばし、鼻をつかんだ。カミーユが彼女を魅了し、懐柔した瞬間だ。女官長を説得する文句を何通りも用意していたサンジェルマンは、「王の娘に相違ないわ」と諸手をあげての歓迎ぶりを示す彼女を見て、力強い味方を得た、と、そのとき安心した。
 その女官長が、今この場で、王妃にカミーユの存在と入城を告げる。
 昔からずっと待ちわびていた王の子を胸に抱けることで、カミーユと会ってからの女官長は上機嫌だが、王妃にとって、庶子は歓迎される存在ではない。まして、王との間にまだ子が誕生していない王妃には、なおさら不愉快だろう。

 サンジェルマンが同席していることに動揺した王妃は、女官長が彼女の顔面に投げつけるようにして言い放った発言に、いきなり、静止した。
「ですから――」発言を繰り返そうとした女官長の肩をつかみ、サンジェルマンは彼女を制した。
 王妃には、驚愕の事実を受け入れさせる時間が必要だ。王妃も彼女の侍女も、次の句が継げず、ただただ女官長を見つめている。
 静寂がしばし流れ、王妃がようやく口を開いた。
「……あの、王に……子がいるって……?」
 サンジェルマンの許可を得るように女官長が振り返り、彼は小さく頷いた。
「はい」女官長が王妃に答えた。「訳あって、今まで別の場所で暮らしておりましたが、それはそれは可愛らしい、一歳数ヶ月の女の子ですわ。あんなに小さいのに、王にそっくりでいらして……!」
 王妃が首をぶるぶると振った。
「……そんな、ばかな……」
 サンジェルマンは冷静に王妃を見ていた。王妃は唇を噛み、顔を伏せる前には、彼女の目尻に涙が光っているようにも見えた。
「あの、でも……」
 女官長からサンジェルマンに王妃の注意が移り、彼は王妃を見返す。王妃が躊躇したように目を一瞬そらした。
「本当に……王の庶子なのですか?」
「本当ですよ」
「王自らがそう証言なされているのです、王妃様。私も御子の顔を拝見しましたが、彼女は王の幼い頃そのままです。間違いはございませんわ」
 サンジェルマンの後に女官長がそう続けると、王妃は言葉に詰まり、うな垂れた。そのときはさすがに、彼も王妃に若干の同情を覚えた。
「そう……そうなの……」
「御子は一週間後に後宮に入ります」
「王城で育てるのですか!」
「王の御子です、当然にございましょう?」
 女官長の態度は、彼女が王妃の立場と逆転したような、そんな錯覚をサンジェルマンにおこさせた。
「でも、私という存在がありながら、どうして……。私が子を産めば、庶子などここには必要ないのではありませんか」
 女官長が王妃にたたみかけるように言った。
「王妃様、ヴィレールでは、王の御子は王城で育つのです。それに、庶子は女児で、王位継承権はありません。王妃様が心配なさる事も、気にかける必要もございませんわ。――私どもは、この後宮に王の御子が入るという知らせを、王妃様にお伝えしたかっただけにございます。この件で、王妃様のお手をわずらわす事は一切ございませんわ。御子の面倒は私どもでみますので……」
 女官長はサンジェルマンに誇らしげな笑みを向けた。
「どうか、王妃様はご世継ぎを早くお産みあそばすことだけをお考えください」
 王妃が王に嫁いで以来、耳が痛くなるほど聞かされてきた科白だろう。結果的に子に恵まれていない王妃は、何も反論できなくなったようだ。
 サンジェルマンは王妃を見て微笑み、女官長の言葉をさらに強調するように言った。
「王妃様、どうか早く、ご世継ぎをもうけてください。王も王妃様もお若いのです。お二人が協力なされば、それもすぐにでも叶いましょう」

 王妃が去り、王妃に同情的な態度を見せた侍従長が去り、サンジェルマンと女官長の二人が部屋に残った。王の子を入城させる日について、二人は簡単な確認をする。女官長の指揮下で、後宮は幼子を迎え入れる準備を着々と進めつつある。乳母や世話係も選ばれ、抵抗が予想される大臣たちと子の対面も計画されている。王妃への報告も、ついさっき済ませた。女官長が先んじて配慮し、関係者たちに根回しをした結果、サンジェルマンが動く必要はほとんどなかった。
「女官長、ヴィレールでは、いつから王の子全てが王城で育つようになった?」
 彼女が、さも当然と王妃に断言した言い回しを持ち出し、サンジェルマンは笑った。
「まあ、私は“全ての子”とは言っておりませんよ?」
 女官長はそう言い返し、彼と一緒に笑った。
「でも、あの子ときたら……本当に驚きましたわ。王が幼い頃に戻られたような姿で」
「ああ。王によく似ている」
 サンジェルマンが頷くと、彼女が彼をじっと見つめて言った。
「あの子は……本当にあのジェニーが? ジェニーが生きていたなんて、私は、今でもとても信じられません」
 サンジェルマンにしても、信じられず、受け入れ難かった事実だ。彼はジェニーの生存に信じられないでいたが、彼女を失って苦悩してきた王が決して放そうとしなかった彼女の手を見て初めて、“彼女は生きている”と実感できたのだ。実物の彼女を目にしていない女官長なら、信じられなくて当然だ。
「王妃様にも、ジェニーの件を話さねばならないな」
 既に改装工事の始まっているテュデル宮を思い描き、サンジェルマンは女官長に告げた。そうですね、と、さっきまでの陽気さを消し、彼女が小さく頷く。
「――それにしても、ジェニーを王城に再び住まわせるなど、私は、夢にも思いませんでしたわ」
「私も驚いている」
「サンジェルマン様、あのジェニーなのですよ? ここを逃亡したあの娘ですわ。それを、王はどうしてお許しになるのです? しかも、離宮までお与えになって!」
「……王は彼女を愛しておいでなのだろう」
「ええ、それはそうでしょうけれど。でも王は、あの娘のことで長い間ひどく苦しまれたのです。それはあなたもご存知ではありませんか。それを何の咎めもなく……。ああ、サンジェルマン様、王は彼女をお許しになられても、私はとても無理ですわ! あなただって――」
「私もジェニーのことは許してはいない」
「そうであれば、サンジェルマン様? 王と王妃様のために、彼女が入城を果たせない状況を作ってあげればよいのです。できれば……永久に」
 サンジェルマンが彼女の希望を察し、その瞳を見つめると、彼女が期待に顔を輝かせた。彼女の希望は、サンジェルマンがジェニーと王の再会を知ってから、ずっと心に抱いていた彼の願いでもある。
「皆のためには、ジェニーはこの世にいない方がよいのです、サンジェルマン様」
 ジェニーが今度再び王の前から消えたら、と考えると、サンジェルマンは女官長に即答できなかった。


 当初の計画どおり、サンジェルマンは自宅で一時的に預かっていたジェニーの娘を連れ、王城へと戻った。事前に女官長たちが奔走したせいで、王城はそれほどの抵抗も見せず、幼子を受け入れた。ゴーティスは子の入城に立会いはしなかったが、その知らせは、サンジェルマンによって彼にもたらされた。子との対面も期待されたが、ゴーティスはそれをむげに断った。その後も、サンジェルマンや女官長がゴーティスのために対面の場を何回か設けようとしたが、彼は逐一、それを拒むか、無視を決めこんでやり過ごした。
 王城の人々がカミーユに自然に慣れる一方で、ゴーティス以外に唯一、彼女に決して近づこうとしない人物がいた。王妃カサンドラだ。彼女は同じ棟に住んでいながら、ちらりともカミーユの顔を見に行かないそうだ。そして、彼女はゴーティスの前で無関心なふりを通し、子について、質問のひとつも向けなかった。同郷の侍女たちから行動を制限されているせいかもしれないが、それは、彼女のささやかな自負の表れだろう。
 だが、カミーユと同じ後宮に住むカサンドラは、子の存在に逆上し、怪我をさせたり、毒を盛ったり、忌まわしい過ちを犯すとも限らなかった。彼女はおとなしいが、同郷の侍女にそそのかされ、発作的にそんな行為をしかねない脆さを抱えている。ゴーティスは、子が早死にしようが怪我をしようが気にはならなかったが、ジェニーを王城に引き止めておくために、子に少なくとも一年は生きていてもらいたかった。

 そんな中、カミーユの入城後初めて、ゴーティスは後宮の扉をくぐった。王が夜以外の時間に後宮を訪ねないことを知る女たちは、彼の唐突な登場に浮き足だった様子を見せたが、彼は娘やカサンドラのいる階上には向かわず、その足でサロンに直行した。
 ジェニーが好んで過ごしたサロンから足が遠のいて、ゴーティスがサロンに来たのは本当に久しぶりだった。彼女の息吹がそこかしこに残る場所に、苦痛を感じずに立っていられるのが、ゴーティスには嬉しかった。彼女を思い起こさせる全てのものから目を背けていた日々が、ようやく過去となったのだ。
 サロンには誰もおらず、中庭への降り口に、衛兵の後ろ姿が見え隠れするだけだった。この時期はいつまでも外が明るいので、晩餐前のこの時間帯でも、室内にはまだ日が明るく射している。ゴーティスは日光と中庭の緑の匂いがするサロンをゆったりと歩き、開放された窓から、対面の東館を感慨深げに眺めた。
 ゴーティスが今目にしている風景は、かつてジェニーの目に映っていたものだ。陽のあたる棟の壁面、規則正しく並ぶ窓。目に入るものを一つずつ、ゴーティスは記憶に留めようとしていく。
 ジェニーは今ゴーティスが立つ位置から、東館をよく見上げていた。彼女は窓辺のゴーティスに気づくとサロンの奥に入ってしまうことも多かったので、ゴーティスはあえて窓辺から一歩下がり、彼女が建物を眺める様をひそかに見守った。ゴーティスは彼女が日の光の中にいる姿が好きだった。太陽の光を浴びる彼女には、生の力がみなぎっていた。だから、ゴーティスが二階の執務室からサロンを見下ろし、そこに朝の日差しに照らされた彼女の顔を見られると、彼の唇には自然に笑みがこみ上げてきたものだ。
 あと数週間で、ジェニーの顔を見られる。
「……早う来い、ジェニー」
 王城での再会が決まっているからこそ、その日が待ち遠しく、ジェニーを恋しく思う。会えないでいた期間の長さを思えば、比較にならないほどわずかな日数だというのに、彼女との思い出が次々に頭に思い出され、残りの日々に我慢ならなくなる。
 彼女とこの地で再会したとき、最初にどう声を掛ければよいのか、何から話せばよいのか、何をすればよいのか。どうすれば彼女は笑うだろう?
 ゴーティスはいつまでも迷い、考えがまとまらなかった。そんな些細なことで迷い悩む自分が、彼には信じられなかった。

 そのうちにサロンに誰かが入ってくる気配があって、ゴーティスにはそれがジェニーだと思えて、鼓動を高鳴らせた。彼の居場所は後宮の出入口からは死角となっており、その人物は彼の存在に気づかないようだ。衣擦れの音が近づくにつれ、ゴーティスの期待感も高まる。彼はゆっくりと振り返った。靴音が近づいてくる。
 ほどなく、柱の陰から黒い頭髪が現れ、霧がはれて視界が広がるように、ゴーティスはジェニーへの慕情からすっと覚めた。そこには、夫を見つけ、彼と同じように驚いているカサンドラがいた。ジェニーの幻影がかすんで消えた。
「……王?」
 カサンドラが、困惑と恐怖を顔に映し出した。
「どう……されたのです? こちらで何か……?」
 ゴーティスにとって、このサロンはジェニーに所属するものだ。カサンドラの吐いた問いはゴーティスが言うべきことで、彼は彼女にジェニーの居場所を侵害されている気がした。
「あ……私、部屋に戻って着替えないと……」
 ゴーティスの無言の返答に恐れをなしたのか、カサンドラが焦って退こうとする。
 彼女の臆病な態度を見ても、ゴーティスは以前ほど苛つかなかった。彼女が踵を返し、来た道を戻ろうとした背中を見て、ゴーティスはふと思い立って彼女を引き止めた。
「待て」
「……はい?」
 恐々と後ろに振り返ったカサンドラに、ゴーティスは数歩近寄った。
「そう慌てて行かぬでもよい。おまえに話がある」
「……はい」
 ゴーティスはカサンドラの前に立ち、彼女を覗き込むように見つめた。彼女から恐怖は消えなかった。
「おまえ、子には会うたか?」
「えっ?」
 カサンドラがひどく動揺して、視線をあちこちに散らした。「い、いいえ……ちょうどよい機会が作れませんでしたので、まだ……」
 それがまったくの嘘なのは明白だったが、ゴーティスは腹も立たなかった。そうか、と彼が素っ気なく言うと、カサンドラが戸惑った瞳を返した。
「……あの、今日はもしや、御子に会いに来られたのです……か?」
「俺が? 何ゆえ?」
 カサンドラはますます戸惑ったようにゴーティスを見つめたが、彼が見返すと、彼女はさっと目を逸らした。
「その“娘”のことだ、妃殿。ひとつ、頼まれてくれぬか」
「そんな、王が頼みごとなど……。どうか、何なりとおっしゃって下さいませ」
 カサンドラの瞳が自分に戻り、ゴーティスは満足して、微笑んだ。ゴーティスが笑うと、彼女は彼の顔から目が離せなくなるかのように、目をわずかに細めて彼を見つめる。
 ゴーティスは彼女に言った。
「おまえに、娘の名をつけてもらいたい」
「……えっ? でも、御子には……もう、お名前があるはずでは……?」
「改名させたいのだ。おまえには、その名を考えてもらいたい」
 夫の提案に驚き、彼女は大きく目を見開いたままだ。
「あ、でも……そんなことをしたら、御子の母親がどう――」
「あれは俺の娘だ。この後宮においては、おまえがあの娘の母親も同然。娘には、おまえの好きな名をつけるがよい」
 勝手に娘を改名されたことで、ジェニーが怒り狂う様子が目に浮かんだが、ゴーティスは目の前にいる妻の表情の変化を気にした。
 ――子に手を出させないためには、その子に愛着を抱かせればいい。
 カサンドラの硬さが解け、まばたきの回数が多くなるのを見て、ゴーティスは心の中でほくそ笑んだ。彼女からの快諾を予想し、ゴーティスは彼女の肩に手を置いた。
「よいな?」
 彼女が反射的に頷いた。

 カサンドラの横を通り過ぎ、後宮への出入口に差し掛かるまで、彼女はゴーティスをずっと見送っていた。
 それがもしジェニーだったなら、ゴーティスは何度も後ろを振り返り、最後には我慢できなくなって、彼女の元に駆け戻ったかもしれない。
 ジェニーへの想いがほとばしり、ゴーティスはサロンから逃げるようにして、後宮の廊下を歩いていった。



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